旧myroom(香港電影的日常 '01/2/17〜'06/1/29)より移転。

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怪獣夜話・最終夜 [2008年02月07日(木)]

『CLOVERFIELD』'08年製作、監督:MATT REEVES、主演:MICHAEL STAHL-DAVID

 映画『CLOVERFIELD』はこの四月にも日本公開予定です。ここから先はネタバレしかありません。映画公開前に余分な情報を欲しない方はご覧なさいませぬように。

 『CLOVERFIELD』は当初『1-18-08』というコードネームで呼ばれていた。予告編が秀抜で、そのプロモーション展開によって注目を集めたといえる。

 パーティをしている若い男女が、突然大きな物音に驚き、ビルの屋上に出てみれば、遠くのビルが突然爆発し、自由の女神が残骸として降ってくる。何が何だか訳が分からず、右往左往するばかりの若者たち。続けさまに爆発は起こり、911テロそっくりの状態でビルの倒壊を目撃。その最中、崩れ落ちるビルの向こうに、巨大な何かが蠢く・・・・・。

 予告、こんだけ。

 そこに『1-18-08』と出るだけで、どうやらこれは怪獣映画ではないか?との噂だけが独り歩きし、世の怪獣映画好きの耳目を集めた。
 この効果は絶大だったらしく、期待値MAXに膨れ上がった状態で公開され、大ヒットを記録したというのが、つい三週間前の出来事。

 このプロモーション手法自体が、嫌でも『プレア・ウィッチ・プロジェクト』(以下『ブレア』)を連想させる。映画の作りそのものも、手持ちのビデオ・カメラによる擬似ドキュメンタリーという、『プレア』の影響下であることに疑いはない。

 そもそも『プレア・ウィッチ・プロジェクト』は、映画の内容よりもその宣伝方法でヒットした映画だ。魔女の伝説を取材に出かけた学生が行方不明となり、残されたビデオ・テープを編集して公開。この映画の嘘を成立させるために、あえて地方の自主上映からスタートしたり、行方不明の学生を探すポスターやWEBを製作、警官や関係者の証言なども用意周到に作り上げ、口コミだけで都市伝説のように全米に広がっていったのだ。
 これが大手の目に留まり、全米公開はおろか、世界各地に配給されてしまったのだから、自主映画に毛の生えたような作品は、プロモーションによって勝利を掴んだ訳だ。

 都市伝説として、本物ではないか?と思われている段階で公開された『プレア』を観た観客の恐怖と、全ての種明かしが済んでしまい、劇映画として公開された『プレア』を観た観客(←日本はココ)の恐怖は、全く質の違うものだったのが解るだろう。
 つまり、こういう映画は、そのプロモーション効果が最も有効に作用している内に公開してこそのもので、ネタバレしてしまってからではその効力を発揮しえない。すなわち、期間限定の完全イベント・ムービーなのだ。

 そこで『CLOVERFIELD』である。

 この映画も、これはもしかして怪獣映画なのか?と思わせる点が期待感を煽るのであり、このネット時代に、公開が一週間でも遅れることは、映画の意味そのものを台無しにしてしまう愚挙以外の何物でもない。
 『ブレア』の轍を踏まないためにも、どうして『CLOVERFIELD』の公開を同時に出来なかったのか?この映画を公開する意志があるのなら、そこまでやってあげるのが、本当の意味での宣伝活動であるはずだ。
 そりゃあ諸事情はもちろんあったのでしょうがねー、“「LOST」のJJエイブラムスが仕掛ける驚愕の謎!”とか何とかいって、TVスポットをバンバン打てば、アメリカでの結果を待たなくとも、それなりの集客効果は挙げられたと思うがな。この映画に関しては、時間が空けば空くだけ客足が遠のくのではないか?

 もうこの映画は怪獣映画とネタは割れてしまっているのだから、日本の観客は残念ながらサプライズの部分を抜きにして接しなくてはならない。そこをスッ飛ばしてなお、この映画は面白いものか?

 これが面白いんですよ!

 この映画が新世代の怪獣映画と呼ばれているのは、何もプロモーションが優れていたからだけではないんです。そこを抜きにしても、十分に新しく、十二分に面白いと言って構わない。

 実は通常の怪獣映画を期待する人には、これは全く面白くない映画である可能性も大なのです。事実、既にいくつか出ているネガティブな意見のほとんどが、「意味がわからない」、「はっきり見えない」、「最後の結末もついていない」などの、この映画独自の作りの部分です。

 怪獣映画とリアリズムの擦り合わせは、平成ガメラ以降、怪獣映画に与えられた踏み絵のようなものです。ゴジラが全く振るわなくなってしまった理由の一つが、このリアリズムの擦り合わせに失敗していたからなのは明らかですね。作り手が提供したいものと、観客が観たいものは、乖離してしまっていたんですよ。
 初代『ゴジラ』の公開されたのは1954年です、これって太平洋戦争終結からわずか9年ですよ!確かにゴジラのような巨大怪獣の存在にリアリズムはありません、恐竜ならまだしも、放射能を吐く巨大怪獣なんてバカバカしいにもほどがあります。
 それでも『ゴジラ』は当時の観客にとって圧倒的なまでのリアリズムを持っていたんです。それは『ゴジラ』が戦争のメタファー以外の何物でもなかったからで、当時の観客は無敵のゴジラに蹂躙される東京に、この間まで日常として存在した空襲を写し見ていたんです。私はリアルタイムで『ゴジラ』を観たことがある人に何人にも当時の観客の反応を聞きましたよ。当時の劇場では、ゴジラが登場すると悲鳴が上がっていたとその人たちは言います。
 最初の『ゴジラ』は、リアリティのある恐怖映画に他ならなかった。

 911テロの後、アメリカ映画は明らかに変わりました。かつて日本が敗戦の後変ったようにです。その最たるもののひとつが、暴力の現場におけるリアリズムと臨場感だろう。『ユナイテッド93』や『キングダム見えざる敵』、ジェイソン・ボーン・シリーズなど、世界貿易センター倒壊のカタストロフをリアルタイムで見てしまった人間に存在する、暴力リアリズムへの負の憧れが映像作家に蔓延してしまった。

 『CLOVERFIELD』が911以降に作られた映画の中で、最も911を連想させるのは、NYというロケーション(意識的だろうが)もさることながら、現場の臨場感をバーチャルに体感させるリアリズム描写への拘りに他ならない。
 『CLOVERFIELD』におけるビル倒壊シーンのディティールが、WTC倒壊時の映像をトレースしているのがその顕著な例だ。

 スティーブン・スピルバーグの『宇宙戦争』が、地球を侵略に来た宇宙人との全面戦争という未曽有の事態にありながら、家族を守って逃げ回るだけの主人公“個人の視点”に絞って描いたのは記憶に新しい。
 『CLOVERFIELD』はこれを更に一歩進めたもので、徹頭徹尾、怪獣に襲われた人間“個人の視線”だけで描いているのだ。

 ビデオ・カメラを持った人間(パーティを収録するため)が、惨事に見舞われ、カメラを持ったまま逃げ惑う。当然ストーリーは無いに等しく、カメラ・ワークも滅茶苦茶だ。最後まで一人称の画面で進められ、全ては断片的な上に、映画は何一つとして観客の疑問には答えない。
 ここら辺が従来の怪獣映画ファンの期待に添えないところで、結末もはっきりしない映画は、怪獣がどうなったのか?すら提示しない。

 しかし考えて欲しい。リアリズムという点で、これほどリアリズムに徹した怪獣映画は過去に存在しなかったではないか。ただしこれは望んでいたものとは少し違う結果というだけの事だろう。

 だが、災厄とパニックの中心にいる人間には、災厄の全体図など見えないものだし、その災厄の要因(含む怪獣)が何であれ、全てを理解するのは事が終わってからというのが本当であろう。911で逃げ惑う人々の何人が、アルカイダが飛行機をハイジャックしてWTCに突っ込み、ビルが倒壊していると認識できていたであろうか?

 従来の怪獣映画は、このパニックの有様を、神の視点(物語である以上作者の視線)で物語のパーツごと、キャラクターごとに整理し、原因から結果までを再構築してあるのが普通。これを“物語”というんですが、『CLOVERFIELD』はこれを一切放棄した。これがこの映画の持つ新しさの本質です。
 プロモーションと映画の作りは確かに『ブレア』なんですが、『ブレア』はしょせん『食人族』じゃないですか。宣伝手法だって『スナッフ』という先例の拡大バージョンだ。『ブレア』が新しかったとしたら、その二つを組み合わせたイベント・ムービーに仕上げた点ですよ。

 『CLOVERFIELD』が『ブレア』を踏襲していたとしても、全ての作劇法という枠組みをとっ払い、“個人の視線”だけで映画を撮るというのは、素人には出来ないプロの技なんです。これは似ているようでいて『ブレア』とは全く違います。だからこそ『CLOVERFIELD』は新世代の怪獣映画に成り得たんですな。弱点があるとするなら、これは一回しか使えない手法だということでしょうね。

 さあ、映画が新しい観たことがないようなものであるのは解った。後は意味不明という名のリアリズムを“是”とするか“非”とするかだけ。こればっかりは観た人の感性に委ねられてしまうんですが・・・・私?、私はもちろん!“是”の方ですよ!

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