'08年・夏の興行戦争〜アメコミ篇 [2008年08月28日(木)]

 今年の夏はアメコミ・ヒーロー物三本、考古学アドベンチャーの続編二本、そして大物コメディアンの新作がズラリと並ぶという興行戦争の年だった。といってもこれは本国の話ですが。そこで同ジャンルから、アメコミ物と、コメディを一括りにして、二回に分けて総評をお送りしたいと思います。

 バットマン・シリーズの新作『ダークナイト』の評判がすこぶるいい。

 実際この映画は面白く、出来も相当に良かったのですが、この映画ってやっぱり911後遺症の作品なんですよね。
 911テロから続くイラク戦争の泥沼で、かつてアメリカ人が考えていた、アメリカという国の絶対の正義に揺るぎが生じた。特にブッシュ政権後半の4年間はそういう4年間だった。
 アメリカ人が初めてやられる側に回った911。ショックだったんだろうな。日本人も敗戦の9年後に『ゴジラ』を作っていますから、気持は解るんですけどね。 

 正義と悪とその中間で苦悩する人々のお話は、正に現代に生きるアメリカ人の苦悩そのもので、それをハービー・デント、ジョーカー、バットマンに振り分けた脚本は見事だった。
 この映画を観た多くのアメリカ人がこう言います。「これはバットマンでなくても通用する話だ・・・」と。
 
 でもこの映画の居心地の悪さも、正にそこじゃないかと思うんですけどね。

 ティム・バートン版『バットマン』もシリアス路線ではありましたが、『バットマン・リターンズ』なんて、バットマンでしか成立しない話なのに比べ、今回の『ダークナイト』は、バットマンでなくても成立するお話。アメコミ原作の映画として、ちょっとそれはどうよ?というのが居心地悪さの正体。

 そもそもバットマンなんて、大金持ちの中年男が、レゾンデートル的悩みの果てに、変なスーツやマスクを着けて、夜な夜な悪人と殴り合いをするお話なんですよ。話をシリアスにすればするほど、その滑稽さが焙り出されるというジレンマを抱えているんです。

 最もこれはバットマンに限ったことではなく、アメコミ・ヒーロー物の実写化には付き物のことなんですが。

 バットマンはアメコミ出版2大大手のひとつDCコミックスの作品。現在はワーナーの系列であるため、当然のことながらバットマン・シリーズはワーナー社製。
 DCコミックスのもう一方のヒーローであるスーパーマンは、他のヒーローと一線を画していまして、ほとんどのヒーローが基本的には地球人であるのに対して、クリプトン星人であるスーパーマンは、己がヒーローであることそのものには悩まない。力を使うことや、クラーク・ケントとして生きる場合に生じる悩みは存在しても、ヒーローであることにはそんなに疑いは持たない人。

 だからか、あんまり今日的でない『スーパーマン・リターンズ』(なんたって最大の悩み事はロイス・レインのことだった)は、今のアメリカ人にはウケなかった。
 おかげで路線変更を余儀なくされて、『リターンズ』の続編としてのシリーズは作られないことが検討されているとか。

 『リターンズ』の続編が作られないもうひとつの理由が、ライバル社であるマーベルの動向。

 かつてマーベル作品といえば失笑される失敗作のオンパレードという黒歴史がありました。『ハワード・ザ・ダック』、ドルフ・ラングレン版『パニッシャー』、『マスターズ・オブ・ユニバース』、ユーゴ合作版『キャプテン・アメリカ』、ロジャー・コーマン版『ファンタスティック・フォー(以下FF)』etc。

 風向きが変わったのがサム・ライミの『スパイダーマン』からで、やっぱりレゾンデートル的な悩み(ピーターの場合もう少し庶民的な悩みもあるが)を抱えた等身大のヒーローという作りで、マイノリティについての映画である『ブレイド』シリーズや、『X−MEN』シリーズにもヒット作のパターンとして応用されていく。

 そのマーベルが明確に変わり始めたのは'04年版『パニッシャー』から。

 どんなヒーローも存在意義やフロイト的悩みを抱えてて、変なタイツ姿で殴り合いをするなんて・・・・。そのバカバカしさに気づいたのか、'04年版『パニッシャー』や、'05年からスタートした『FF』シリーズでは、ヒーローの悩みなど小さいものとして、縦横無尽に暴れまわるコミック本来の面白さを活かした作品作りにシフトしていく。

 そもそも『FF』は原作にしてからがそうだったのだ。体がゴムのように伸びるリチャード、その妻で透明人間のスー、弟の人間発火装置ジョニー、いずれも大して悩むこともなく、ヒーローとしての自分を受け入れて活躍する。悩みらしい悩みを見せるのは岩石人間ザ・シングくらいのもので、これも逆に他のヒーロー物に対するパロディとしての役割くらいの悩みでしかない。

 そもそも荒唐無稽な漫画を、実写にして生身の人間が演じても、どこかで滑稽感は否めず、それを糊塗するために殊更シリアスぶることで、かえって滑稽さが増す・・・。

 そうであるならば、いっそのことチマチマ悩むのなど辞めて、ヒーローはヒーローらしく、変なタイツを着ていることへの言い訳なんかクダクダとは述べずに、悪い奴を殴りつけていればいい。

 マーベルのこの姿勢を徹底するためか、同社は映画の自社製作を始めた。設立されたマーベル映画部門の第一弾が、この夏公開されて大ヒットした傑作『アイアンマン』であった。

 私的には、夏の作品では文句なくこの映画がNo.1で、アメリカ映画本来の娯楽作品が持っていた良さを再認識させられた作品でした。日本では夏の公開ではなく、しかも本来ならマーベル第二弾のはずの『インクレディブル・ハルク』が先に公開されてしまうという不幸な結果に。この二本は絶対に公開順に観ないといけない作品なのに・・・日本の配給会社も罪なことするよなぁ。

 原作の『アイアンマン』はベトナム戦争を背景にしていたんですが、現在の中東情勢を反映してアフガンを舞台に変更。これがまず旨くいきましたね。飲んだくれで会社を乗っ取られるボンクラ社長役に、実生活でも酒やドラッグで度々問題を起こしているロバート・ダウニーJrを起用。決して華やかな人気スターではないダウニーJrが主役にも関わらずこの映画がヒットした要因こそ、圧倒的に映画そのものが面白かったことを物語っている。

 アイアンマンにも悩みはある。映画でも描かれる。しかし、それは本当に小さなことで、善と悪の対立や、ヒーローとしての生き方そのものなんかじゃない。スーパースーツ(プロトタイプのレトロ感が泣かせる!)を着こんだボンクラ社長は、男の意地とヒーローとしての誇りを胸に、容赦なく悪人共を叩きのめすのだ。これこそ漢が求めていたものではないか!?

 アン・リーによって'03年に『ハルク』が登場してから、ごく短期間でリメイクが作られるように報道されたが、実質続編の『インクレディブル・ハルク』。実はこの作品、マーベルのアベンジャーズ構想の一環として作られているのだ。

 マーベル社のヒーロー達は作品中で同じ世界観を共有しており、キャプテン・アメリカを中心とするアベンジャーズというヒーロー同盟には、アイアンマンもハルクも関係している。
 マーベルは結果としてこのアベンジャーズまで映画化することを目論んでおり、既にキャプテン・アメリカ、ウルヴァリン、マイティ・ソー(本当はマイティ・トアと発音するんでしょうけど、昔日本でも出ていたコミックスは“ソー”でした)を映画化すると発表しており、全作品がアベンジャーズに向けてリンクしていくことも併せて発表された(だからアイアンマンを先に上映しないといけないんですよ!)。

 駄作以外の何物でもなかった'03年版『ハルク』に比べ、『インクレディブル・ハルク』は現在のマーベル路線に乗っ取った作りになっている。
 ブルース・バナーはハルクであることを悩みはするけれど、悩んでいるばかりでは何事も解決しないということを解っている人物像に変更。世界を駆け巡って治療法を研究する傍ら、ハルク変身前の自分(すなわちブルース・バナー本人)がお荷物になることを懸念し、ヒクソン・グレイシー(本人)に弟子入りするという用意周到さ。

 結果、ブルースを追う側と、追われるブルースとの攻防という一点に物語展開を集約。そこに恋人ベティや、その父で追う側のロス将軍、ハルクのライバルとなるモンスター・アボミネーションを点描し、テンポ良くクライマックスまで辿り着く。そこには等身大の人間のちっぽけな悩みなど入り込む隙など微塵もなく、ハルクのコピーといってもいいアボミネーションとの対決(『サンダ対ガイラ』のような関係)に向けて進む一直線の物語があるだけだ。

 漫画のヒーローなんて、これで良くはないか?

 マーベルのアベンジャーズ構想に対抗するべく、ライバルのDCコミックスも動き出した。ここで持ち出されるのがジャスティス・リーグ構想だ。要するにDCコミックス版のアベンジャーズな訳だが、製作の発表されているワンダーウーマンとスーパーマンは同居出来るのか?先に書いた『リターンズ』の続編としてのシリーズは作られないというDCコミックスの発表は、来るジャスティス・リーグに向けての世界感の練り直し作業ということだろう。

 そうなるとますますシリアスなクリストファー・ノーラン版の『バットマン』は、世界感の統一性を欠くように思うが・・・・。

 圧倒的にマーベルの作風の方を支持しますよ、私は!

 言ってやろうぜ! Why So Serious ?

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