四次元殺法 [2008年09月07日(日)]

 9月3日にポニーキャニオンより「初代タイガーマスク大全集」というDVD-BOXが発売されました。

 ttp://www.ponycanyon.co.jp/tigermask/

 昭和56年4月23日のデヴュー戦から、昭和58年8月4日の最後の試合までおよそ2年4ヶ月、総試合数385試合、うちTV収録された試合は89試合。

 以前にも「猛虎伝説」というBOXが出ていて、初代タイガーの有名な試合はほとんど全部これに入っているんですよ(56試合収録)。
 今回発売のBOXは、残り33試合のうちの31試合が収録されていますが、まあ名勝負の残りみたいなもんですから、消化試合みたいなタッグマッチばっかり。

 とはいえ、いくつかの試合はマニア心をくすぐる顔合わせの試合もあり、その辺を見所として紹介しておきます。

 お薦めの試合第一位は、昭和57年1月8日に行われた“タイガーマスク&藤波辰巳&アントニオ猪木VSアブドーラ・ザ・ブッチャー&ダイナマイト・キッド&ベビーフェイス”。
 実はこの試合、fake的にはもう一度観たくて観たくてしょうがなかった試合。以前のBOXには収録されていなくて、随分とがっかりしたもんです。

 当時の背景を話しますと、この試合がタイガーのメインイベント初登場試合となります。当時の新日本プロレス(以下、新日)には、絶対的メインの猪木、No.2の藤波(長州力のかませ犬発言は昭和58年10月8日)がいましたし、タイガーの試合は視聴者を引き付けるため、番組開始時に合わせて組まれていましたから、メインに登場することはなかった。
 初のメイン、猪木とのタッグも初、ましてや相手はヘビー級のブッチャーという状況は今観ても新鮮なはず。

 プロレスはショーなのですが、やはり人間がやっている以上、感情が先走ってしまうことが多々あります。行き過ぎると、俗に言うセメント・マッチとかに発展するのですが、そこまでは行かなくても、時折見え隠れする選手の感情が爆発する瞬間に、プロレスの醍醐味があると思っています。なまじなガチの試合なんかより、こっちの方が面白い場合がありますからね。

 今回の注目点はやはりタイガーとブッチャーの絡みでしょう。実はブッチャーは新日移籍後初の猪木とのシングルマッチを28日に控えており、子ども騙しのJrの選手になんか構っていられないという態度がアリアリなんですよ。ドロップキックは片手で払いのけるは、フライング・クロスチョップはまともに受けないは、場外乱闘ではタイガーをボコボコ。タイガー側から見ればいいとこなしの試合なんですが、ちょいと緊張感の漂ういい場面満載の試合。一瞬だけど猪木とキッドという珍しい絡みも実現するし、この試合だけで“買い”なんですよこのDVD。

 同様のタッグでタイガーがメインに登場した例は他にもありますが、以前のBOXに収録されていた“タイガー&藤波&猪木VSスティーブ・ライト&ドン・ムラコ&マスクド・スーパースター”や、惜しくもTV収録されなかった“タイガー&長州(!)&猪木VSブレット・ハート&ビリー・グラハム&ワフー・マクダニエル”なんて試合も記録に残っています。

 お薦めの試合第二位は、昭和57年3月4日のスティーブ・ライト戦。

 ライトとの試合は同年4月1日のものが以前のBOXに収録済みでしたが、今回は前哨戦の試合。
 タイガーマスクといえば、メキシコのレスラーと派手な空中戦ばっかりしていたようなイメージもあるかもしれませんが、現役時代から「メキシカンとはもう試合したくない・・・」とこぼしていたものです。
 タイガーが手が合ったのは実はヨーロッパ系の選手が多く、小林邦明や寺西勇などの日本人対決を除けば、ヨーロッパ系の選手との間に名勝負が多い。

 そもそも最大のライバルであった爆弾小僧ダイナマイト・キッド、暗闇の虎ブラックタイガー(“ローラー・ボール”マーク・ロコ)は共に英国系ですし、ピート・ロバーツ、クリス・アダムス、デイブ・フィンレー、マーティ・ジョーンズらも英国マット組。
 ドイツ圏からの刺客、カズウェル・マーチン、ボビー・ガエタノ(出身はバハマ)なんかもタイガーと好勝負を繰り広げました。

 そんな中、タイガーと合わなかったヨーロッパ系レスラーが三人(もう二人は後述)いるのですが、それがスティーブ・ライトなんですね。
 スティーブ・ライトといえば、“蛇の穴(スネーク・ピット)”出身で、ランカシャー・スタイルのキャッチ・アズ・キャッチ・キャンの申し子みたいな存在。同じく“蛇の穴”出身のピート・ロバーツはタイガーの好ライバルだったのに、どこがどう違ったのか?

 “蛇の穴”というのは、イギリス北部はランカシャー州ウィガンにあるキャッチの道場。炭鉱夫の集まる街ウィガンで、坑道のような狭い道場はいつしか“蛇の穴(スネーク・ピット)”と呼ばれるようになったという。
 創設者のビリー・ライレーによるこの地獄の道場からは、ジョー・ロビンソン、ビリー・ジョイス、カール・ゴッチ、ビル・ロビンソンから、バート・アズラティ、ブルーノ・アーリントン、ロイ・ウッドなどの欧州名レスラーを排出。タイガーのライバル達、キッド、ロコ、ロバーツ、そしてスティーブ・ライトもここの出身だ。

 この“蛇の穴”という語感が、後に梶原一騎によって漫画「タイガーマスク」の修行場“虎の穴”に使われた訳だから、本家本元の“蛇の穴”からの刺客はタイガーマスクにとって必要不可欠な存在だった。

 なのに何故かスティーブ・ライトに対するタイガー本人の評価は低くて、試合がし難かったものか、凡戦に終わっています。当時のTV放送でもこの試合はダイジェスト放送でした。その辺を今回のBOXでは確認したい。

 お薦めの第三位は、昭和57年5月21日の“タイガー&木戸修VSカルロス・ホセ・エストラーダ&ホセ・ゴンサレス戰”。

 これはもう顔合わせの妙に尽きます。栄光のディファジオ・メモリアル&ブルーザー・ブロディ刺殺犯というタッグは、二度と観れない組み合わせ。
 エストラーダがいなければ、日本におけるJrヘビー級の歴史はなかった訳ですから、タイガーとの対決は歴史の結点だったな。

 お薦め第四位は、昭和57年10月15日の“タイガー&木戸VSレス・ソントン&ジョニー・ロンドス戰”。マニア的にはこれが一番観たいのではないか?

 レス・ソントンといえば、タイガー曰くワースト試合の相手。何も出来ないしょっぱいレスラーの代表格で、タイガーにNWA.Jrのタイトルを渡しにきただけの人物といわれています。以前のBOXにその時のタイトル戦が収録されていました。
 一説には、試合前にかなりゴネてタイガーに負けるブックを嫌がった為、タイガーの中の人が随分とキレたなんて話もありますが・・・。こいつがタイガーと合わなかったもう一人の欧州系レスラー。タイガーにタイトルを奪われた後も、勝手にチャンピオンとして防衛戦を行っていた不届き者。

 ソントンなんてどうでもいいんですが、今回の目玉はジョニー・ロンドス。カール・ゴッチのライバルとして名を馳せた伝説のシューターは、外人選手が手薄な旗揚げ期の新日プロにゴッチの引きで来日。無名の外人ばっかりのシリーズで猪木がシリーズ・ノーフォール宣言をしたところ、これに怒ったロンドスは見事に猪木をフォールしてみせた。
 タイガーとの対戦時はもう50歳近い大ベテランなんですが、そのグラウンドの動きの凄さといったら・・・!必見!

 長くなったんだけど、もうひとつだけどうしても取り上げておきたいのが、昭和58年3月4日の“タイガー&星野勘太郎VSアブドーラ・タンバ&ミレ・ツルノ戰”。

 タイガーが合わなかった欧州系レスラー最後の一人が、“ユーゴの鷹”ミレ・ツルノ。
 WWU世界ジュニア王座として、国際プロレスで繰り広げられた阿修羅原との試合は、国際末期に残された永遠の名勝負のひとつ。
 この実力者が何故かタイガーとは手が合わなかった。シングルでも五回くらい闘っているんですが、タイガーが怪我で不調だったこともあって、タイトル戦はTV放映されなかったんじゃないかな?
 BOXには新旧を通じてもこの試合しか対ツルノ戰は収録されておらず、貴重な絡みとなっています。

 初代タイガーマスクの凄さは、何といっても技の安定感だった。今では、タイガー以上の難易度の技をする選手ならいくらでもいますが、みんな失敗が多い。難易度が高いから失敗するというのでは技としては失格ですよ。
 今観返しても、初代はほとんど技の失敗をしなかったし、たとえ若干のミスがあったとしても、その後のリカバリーで帳消しにしてしまえる動きが出来た。だから今観ても初代タイガーマスクの試合は綺麗なんですよ。

 後はアクロバティックな動きの後の、タイガーの目線に注目して欲しいです。回転系や飛び技の後に着地後、タイガーは必ずすぐに相手を視認しているんですよね。いくらショーといっても、プロレスは戦いを演出しているのですから、戦う相手から目を離してはいけないんですよ。今の選手はここが出来ていない。

 日本のプロレスの歴史の中で、スーパースターだったのは、力道山、ジャイアント馬場、アントニオ猪木と、初代タイガーマスクだけ。

 今回のBOXはそれを証明する、貴重な歴史の資料だと思います。

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