『少林少女』興『カンフーくん』 [2008年09月21日(日)]

 思い返せば、『少林足球/少林サッカー』の日本公開は、サッカー・ワールドカップ開催に合わせて一年遅らされたものだった。
 関係者の誰もがその面白さを認めていたのにも関わらず、あまりタイアップにもならないタイアップのおかげで、公開されないのかと思って、こっちはブートVCDで公開前に観てしまったじゃんか!全くどうしてくれる!

 今年公開された『少林少女』と『カンフーくん』も、北京オリンピックに合わせて、相乗効果を狙った製作だったのであるが、そもそもサッカー繋がりだった『少林足球/少林サッカー』ならともかく、功夫と五輪には大して繋がりも無く、中国という括りだけで製作するには無謀だったのではあるまいか?

 北京オリンピックそのものも、四川大地震やチベット問題もあって、はなはだ事前の盛り上がりを欠いた。結果、興行的には何ら反映されず、相乗効果は無いに等しいものだった。

 その『少林足球/少林サッカー』正式な姉妹編である『少林少女』から話を始めよう。

 周星馳をアドバイザー兼プロデューサーに迎えた作品ではありますが、少林の達人がスポーツをやるということ、本家のメンバーだった田啓文と林子聡が出ていること以外に繋がりはない。

 そもそも『少林足球/少林サッカー』という映画は、完璧な形で完結している映画なのだ。その続編を作るという行為自体が、勘違いも甚だしい。
 周星馳本人はリップ・サービスで続編の存在を匂わせたこともあったが、『少林足球/少林サッカー』以降、7年がたっても続編など作られはしていない。
 本人は一本、一本時間をかけて別の作品を作りたいはずで、その証拠に功夫片へのオマージュ『功夫/カンフーハッスル』と、古き良き広東語映画へのオマージュだった『長江七號/ミラクル7号』の二本しか製作していないのが、『少林足球/少林サッカー』以降の七年だ。

 どんな作品として完成していたとしても、最初から『少林少女』は続編のジレンマからは逃れられない運命にあった。

 そのままサッカーの続きをやっても二番煎じ、スポーツの種目を変えてラクロスにしたところで、展開が同じならやはり二番煎じ。ではいっそのことスポーツをやらずにバトルに徹すれば、『少林足球/少林サッカー』の続編を名乗る資格は無いと非難を受ける。これがこの作品に科せられた続編のジレンマというやつだ。
 『少林少女』の問題点は正にこの点にあり、会社とトラブっていたにせよ、結局は周星馳によってすらも続編が作られなかったことの意味もここにある。

 『少林少女』が酷いのは、上に述べた問題点の全てをプチ込んでしまった上に、製作者が『少林足球/少林サッカー』の本質も、功夫映画とは何かも理解していなかったことにある。正直に言って、公開前はこれほど酷い映画になるとは思わなかった。失敗するとは、思っていましたけど・・・。

 中国で修業した柴咲コウは、帰国後に故郷の街(祖父が町道場をやっていた)を訪ねるが、道場は閉鎖、弟子たちはバラバラになっていたのを知る。一番弟子だった江口洋介が経営する中華料理屋でラクロス部の少女・張雨綺と出会い、少林拳を広めるためラクロス部に入部。
 少林の心(?)を普及させたい柴咲だったが、単独プレーの果てに部を追い出され、学園を支配する仲村トオルにに目をつけられる。

 この学園と仲村トオルが、いったい何をやりたいのかが不明で、どこかにスポーツ選手を売っていることは点描されるものの、それが具体的には何を示しているのか描かれる気配すらないのは、端から脚本が破綻していたとしか思えない。
 悪事の本質が不明慮な悪役と戦うことほど、活劇の本来あるべき姿からかけ離れたことはないと思うが、この映画はその点で続編のジレンマ以前の問題点を提示してみせる。

 何故か柴咲を自陣に引き込みたい仲村は、彼女の周囲に無差別攻撃を展開。やがては決戦へとなだれ込む。

 ここからはもうラクロスもへったくれも無くなってしまい、この映画を製作するにあたって周星馳がアドバイスした「バトルものにしてはいけない・・」という禁を破ってしまう。これでは『少林足球/少林サッカー』として始まった作品が途中から『功夫/カンフーハッスル』になってしまうのだが。

 終盤は、仲村の支配する学園中枢に乗り込む柴咲が、張徹的黒服の集団を蹴散らし、塔をひとつずつ登りながら強敵を倒していくという『死亡遊戯』そのままの展開。途中、李小龍モドキを柴咲が一発で倒すという、功夫映画ファンが観たら、およそ受け入れられない場面を挟み、最後は仲村トオルを抱きしめて御仕舞いという、スーパー脱力系エンディング。

 この映画のスタッフは、功夫映画の何たるかを全く解っておらず、周星馳が『少林足球/少林サッカー』や『功夫/カンフーハッスル』に込めた思いや、その作品が持つ意味も、これっぽっちも理解していない。

 ヒット作品の上っ面だけを真似た、最低最悪映画である。

 劇中、柴咲を始め多くの人間が口にする「少林の心」というやつにも困ったものだ。この映画では事あるごとにセリフで語られるが、それを映像で示すのが映画でしょーが!それが何か?すら具体的に演出されることがないのだから、劇中人物はおろか、観客の誰一人として「少林の心」なぞ理解できるものか!

 それらしい演出といえば、ラクロス部を追い出された柴咲が、子どもとのサッカーでチームワークを学び、改心してひとりで練習しているのを見た部員たちに許され、一緒になって太極拳を練習する場面くらい。
 こんなのは「少林の心」でも何でもないぞ!ただの友情を示すだけの演出じゃないか!
 それにだ、そもそも少林寺で少林拳を学び、「少林の心」を広めたい人間が武當派太極拳を教えるとは何事か!少林寺映画の悪役は、方世玉映画の昔から武當派と決まっているのが常識だ。
 『少林足球/少林サッカー』が素晴らしかったのは、主人公がかつての功夫片でのライバルである太極拳を流派として認め、和解の果てに協力して強敵を倒すという、伝統を踏まえた上でのストーリーだったからだ!

 『少林少女』があまりにも酷かったからか、『カンフーくん』はもう少しマシな映画だった。

 冒頭、河南省の少林寺で修業しているカンフーくんが、修行の総仕上げに三十六房に挑む姿が紹介される。河南省で三十六房・・・・もうこの辺でコケそうになったが、まあいい(苦笑)。
 最後に老師のところに行き、そこで倒すべき最強の敵を探して日本へ行くよう命じられる。この老師の姿が、有髪で白眉道人みたいで更に萎えるのだ。

 日本に着いたカンフーくんは、泉ピン子が経営する中華料理屋「幸楽」に住み込み、最強の敵を求めて近所のイジメっ子とかと闘うのだ。

 地元の少年たちとのヌルい交流やギャグなど、大人の鑑賞は考慮に入れられていない感じだが、悪の教材で子供たちを洗脳しようと企む悪役に悲しい過去があったり、ピン子の実家の問題がストーリーに直結していたりと、『少林少女』よりはずっとマシなのである。

 この映画でも度々「最強の敵」なる言葉が出てくるのだが、『少林少女』とは違い、ちゃんと具体的に映像で示す点だけでも映画としては『カンフーくん』の方が格段に上だ。
 この映画における「最強の敵」とは、己自身の乗り越えるべき心の強さであり、仲間を思う優しさこそ真の強さであることなどが、闘いを通じて描かれており、言葉だけで何も描かなかった『少林少女』のスタッフに見せてやりたいくらいだ。

 試練を乗り越えたカンフーくんは、老師の元へと帰って行ったところで映画は終わり、エンド・クレジットにはNG集も流れます。
 土日の昼とかにテレビで放送していたら、子どもにはウケそうな映画で、その点では評価してもいい。

 とにかく『少林少女』の酷さがあまりにもだったせいで、相対的に『カンフーくん』の評価が上がりましたが、どちらの作品も無理して観るには及ばないですな。

 どうしても!という方のみ、『カンフーくん』はレンタル旧作落ち、『少林少女』は地上波があるうちにTV放送された場合で、もの凄く暇があって、人生を二時間くらいなら無駄にしても良いという奇特な方のみ鑑賞されてはいかがでしょう? 

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コメント

TFさん、

>『少林少女』、人生の2時間を棒にふりましたよ。

 事故だと思って諦めて下さい(苦笑)。

>だって選手たちのなかに、特撮系とかグラビアとか、気になる子が数名いたんですもん。
 
 そんなに他の子は解らないのですが、“エリー”は気になったのでチェックしました。『デスノート』の時の方が良かったですね。

>これに懲りた私は、『カンフーくん』には行きませんでした。『カンフーパンダ』も。

 むしろ『パンダ』の方がちゃんとした映画だったのですけどね。
Posted by:fake  at 2008年10月02日(木) 05:03

 『少林少女』、人生の2時間を棒にふりましたよ。だって選手たちのなかに、特撮系とかグラビアとか、気になる子が数名いたんですもん。
 私も、あらかじめ心の中で期待値をぐっと下げておいたのですが、そのラインをものの見事に下回りました。ビール1本2万円は覚悟してお勘定を見たら20万円だった、みたいな。これに懲りた私は、『カンフーくん』には行きませんでした。『カンフーパンダ』も。
Posted by:TF  at 2008年09月23日(火) 10:14

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