考察!『スパルタンX(快餐車)』`84年製作、監督:洪金寶、主演:成龍、元彪、洪金寶ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーこの映画は色々な意味で重要な作品なのですが、一番のポイントは成家班が武術指導を務めている点です。これはサモ監督作品においては異例の事なのです。(当たり前だがサモ監督作では洪家班が武術指導。これにプラス元彪。例外は『ナイスガイ』、この映画のサモは雇われ監督。それに今のサモにはこの時代ほどの力は無い。)香港映画に詳しい人ならサモとジャッキーの関係は、いつもいつも友好的なものでは決してなかったのをご存じだと思います。"大哥"と呼ばれるだけあって、サモは非常に後輩の面倒見がよいので有名です。学院を卒業後、食うや食わずになっている京劇仲間をまとめあげ、功夫映画が商売にならない間も後輩達が路頭に迷わない様にしていたのはサモです。しかし、サモが可愛がるのは"アニキ!"といって慕ってくる連中だけで、それ以外の人達には随分と冷たい仕打ちだったとの意見もあります。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーサモとジャッキーは学院時代から衝突することが多く、それはふたりが成功した現在でもあまり変わらないことはお互いに認めています。一旦衝突するとお互い顔も合わさなくなるそうなのですが、その都度仲直りしているのはやはり同じ釜の飯を食った連帯感が勝るからでしょうか?『スパルタンX』の撮影中にはこんなこともあったそうです。体育会系縦社会の上下関係という立場を重視するサモの前で、成家班の人間がうっかりジャッキーの事を"大哥(アニキ)"と呼んでしまったところ、それを聞いたサモに「誰が"大哥"だ?!」と一喝されたそうです。香港映画のフィクサーとして力をつけたサモと、GHの外貨獲得政策の旗頭だったジャッキーとは、特にこの時期一触即発の危険性をはらんでいたのです。そんなサモが、現場は成家班主導で動いたにせよ成家班単独でのクレジットを許すなんて、異例中の異例といっていいと思います。実際は監督であり皆の先輩でもあるサモは成家班に口を出したでしょう(サモや元彪が指導をしているスチールが残っている。)、それでもなおクレジットされたのは成家班だけで、何故ジャッキーはそこまでこの映画の武術指導にこだわったのか?というのが今回のお題です。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーご存じのようにジャッキーが羅維プロから売り出された時の売りは"第二のブルース・リー"でした。ブルース・リーと自分がまるで違う人間なのは当のジャッキー自身が一番良く分かっていたのでしょうが、不幸にもそういう売られ方をされてしまいました。お蔭でブレイクまで随分と遠回りをするのですが、売れたら売れたで今度は決まってブルース・リーと比較され続けました。`82年頃までのインタビューには必ずといっていいほど次の質問が用意されていたものです。「ブルース・リーをどう思うか?」香港・台湾はのみならず、日本でもアメリカでもヨーロッパでも聞かれたこの質問に半ばうんざりしつつ、いつもこう答えていました。「彼は偉大な先輩。でも僕と彼とは違う。」と。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーもうひとつよく聞かれた質問が「闘ったらどっちが勝つと思うか?」というもので、これにも判でついたように「彼は武術家で自分は俳優、当然彼の方が強いに決まっている。」と答えています。一時は師範の道まで目指した人がです。(この項はどっちが強いか?を論じるのが主眼ではありません。念のため。)ジャッキーは、ありとあらゆる所でブルース・リーについて聞かれ、意識していないように振る舞い続けていました。しかし、ジャッキーほどブルース・リーを意識した人はふたりといないのも事実でしょう。そんなジャッキーですから映画においてパロディ以外でブルース・リー的アプローチをすることは避けていました、その集大成といえるのが『プロジェクトA』であったのはいうまでもありません。しかしいつかは思っていたのではないでしょうか?一度はブルース・リー風のアクションをやってみる、と。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーこの映画のクライマックスは何といってもベニー・ユキーデとの対決場面です。この対決場面が『ドラゴンへの道』におけるVSチャック・ノリスと似ている、というのは当時からいわれたことです。しかしこれは、似ているのでは無く似せているのだとしたらどうでしょうか?これこそが"ジャッキー流リアルファイト(映画的)"だとしたら似ているのも頷けますね。お膳立ては揃っていました、この映画は『ドラ道』と同じヨーロッパロケです、しかも"初の"という点でも同じです。『ドラ道』がチャック・ノリスという格闘家を対戦相手に立てたのに対して、こちらはベニー・ユキーデです。(連れてきたのはサモ)ジャッキーにとって一度しか挑戦するつもりの無い"ジャッキー流リアルファイト(映画的)"を試す機会は、まさにこの時しか無かったといっていいでしょう。(ユキーデとの二度目の対戦となった『サイクロンZ』の武術指導は洪家班と成家班の共同によるもの。実際は元彪と洪家班が中心で指揮をとったといわれている。)ジャッキーはこの『スパルタンX』でのようなアクションは後にも先にもこの時一回しか見せていません。ではこの作品のどこがリアルファイト風だったのでしょうか?ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーこの映画での最大の注目点は"フェイント"にあります。フェイントは実際の闘いに於いても重要な要素ではありますが、この映画のユキーデとの闘いでは実に様々のフェイントによる攻撃を見せています。冒頭、服を脱ぐと見せかけて蹴りを放ったり、右を狙うと見せかけて左を狙ったりとかいう分かり易いものから、連続動作の途中で下段への攻撃が上段へと変化するという少し複雑な動きまで様々です。一番凄いのはロングテーブルのところに追い詰められたジャッキーに向かって、ユキーデが怒涛の連続攻撃を仕掛ける場面です。この場面、ビデオやDVDをお持ちの方はじっくりと(何度でも)見て欲しいのですが、接近戦で肘と膝を主体に追い込んでくるユキーデは、さらにここにロングフックやストレートを盛り込んできます。これはリーチの違う攻撃を加えることで攻撃レンジに目の錯覚によるフェイントを起こさせるという実に高度な攻撃方法なのです。(実際の格闘技でもコンビネーションに交ぜて使われる方法です。)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーさらに注目して欲しいのはここでのジャッキーの受けです。一見、ユキーデの攻撃にタジタジのようにだけ見えがちですが、よく見るとユキーデの攻撃一発一発に対しジャッキーの目がいちいち反応しているのです。そのためフェイントに引っかかり間一髪で防御することになります、ですから若干遅れぎみになってしまうためズルズルと追い詰められていくのです。これが実際の格闘であるなら当たり前のことなのですが、これは映画用に作られた格闘シーンです。私はこれほどリアルに作られた格闘シーンは未だかつて見たことがありません。この後のジャッキーはこのようなリアルファイト的格闘シーンをクリエイトすることなく、『プロA』以降のジャッキー路線を究極まで押し進める方向をとりました。それはある意味、ジャッキーには確実に存在したであろうブルース・リーに対するコンプレックスを、この作品によって払拭しえているからだといえるでしょう。