『碧血劍』'81年製作、監督:張徹、主演:郭追ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー金庸原作の武侠小説「碧血剣」の映画化作品です。日本でも邦訳されたものが手に入りますので、新版('93)の映画版はともかく原作についてはネタバレします。味読の方でこれから読もうと思っている方はお気をつけ下さい。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー第二次新派武侠片ブーム末期、老舗ショウブラザースでは激しく追い上げてくるライバル会社への対抗作として、金庸作品の映画化に取り組んでいた。とり訳熱心だったのは功夫・武侠片の巨匠・張徹で、彼ひとりで五作八本も製作していることからもその事が伺える。(武侠片の歴史については7/1以降の日記
「これが武侠片だ!」を参照して下さい。) 金庸の原作「碧血剣」は、処女作
「書剣恩仇録」に続く第二作目の小説で、両作ともはっきりいってしまえば「水滸傳」のバリエーションである(「碧血剣」に至っては「水滸後傳」まで含む。)ので、作家・金庸としての新味は第三作「雪山飛狐」にまで持ち越されることになる。が、明末清初に展開される物語は歴史上の人物も多数登場し、そのボリュームたっぷりのストーリーは決して飽きさせるものでは無い。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー(小説バレ)明の名将・袁崇煥は濡れ衣を着せられ処せられたが、その遺児である袁承志は父の仇を討ち、宿敵満州国を退治し、真の漢人による平和な世界を作るべく育てられた。華山派で剣の修行を積み、江湖の好漢達と交誼を結んだ袁承志は、華山派の洞窟で見つけた剣客の死体から、その男とその男の敵対する一族(温一族)とも深く関わり合いを持つようになる。その男こそ江湖でも有名な幻の剣客・金蛇郎君であった。折からの政治腐敗は国民に不満を一気に爆発させ、各地で農民蜂起が相次いだ。それは一大勢力と化し、李自成を首領とする一揆軍は都をも落とす勢いで迫っていた。李自成の人柄に撃たれた袁承志は、各地の好漢達を統合して協力することを誓う。旅の途中で様々な人物と知り合い多くの経験を積んだ袁承志は、極悪人と呼ばれ大勢の人間を手にかけた金蛇郎君の行為が家族への思いから来ているのを知り、または明の皇帝は殺す価値も無い凡人であったり、不倶戴天の敵であるはずの満州人皇帝・ホンタイジが聡明な人物であったりするのを見て、人として成長を遂げてゆく。民を思う好人物のはずであった李自成は都に入城するや暴君に変わり果てており、失望した袁承志らは自由の地を求めて旅立つのだった。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー映画版は皇帝がらみの話と李自成の話をバッサリと切り落とし、金蛇郎君と温一族との確執にのみ焦点を当てて描いている。('93年の新版『ユン・ピョウin妖刀秘伝/新碧血剣』も基本的にはそういう話だ。もっともこの新版は金庸原作のキャラクターを使ったパラレル物語で、既に死んでいて回想場面にしか出てこない金蛇郎君が、まだ生きていて袁承志と義兄弟の契りを結ぶというとんでもない映画なのだ。) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー名将の遺児・袁承志(郭追)は乱世を逃れ華山で剣の修行をして暮らしていた。華山派の宗家・穆人清より薫陶を受け、師父の友人で軽功の達人・木桑道人や心優しい聾唖の巨漢と共に修行に明け暮れていた。師父の許しが出て華山を降りることが決まった日、巨漢の見つけた洞窟で奇妙な物を発見する。そこには剣客の死体とその遺書、そして厳重な罠が施されている大小の箱があった。その箱からは「金蛇秘笈」という剣の奥義書と秘剣・金蛇剣があった。世俗に疎い袁承志は金蛇郎君というらしいその剣客を手厚く葬ると、奥義書をもとに極意を身につけた。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー山を降りた袁承志は、龍游幇とひと悶着起こした青年・温青(男装姿の文雪兒が可愛い。)と知り合う。龍游幇から助けた礼にと、彼らから奪い取ったらしい多額の金を半分押し付けると温青は去った。袁承志は金を返すべく温家の土地を訪ねたが、山だしで女を見たことない袁承志はころころと気まぐれに心の変わる温青(実は女の温青青)に翻弄される。金を取り返しに来た一行が華山の弟子(梅剣和、劉培生、孫仲君)だったので同門のよしみで仲裁に入るが、ずっと山にいた袁承志はその存在を知られておらず、かえって事が大きくなる。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー華山派の技を使う事で一同を納得させたが、温青青と孫仲君のケンカを止めるために咄嗟に金蛇剣を使ってしまったことから、温家と金蛇郎君との長い確執を知ることになる。各地で乱暴狼籍を働いてきた温一族は金蛇郎君(回想場面で演じるのは張徹一家の功夫スター・龍天翔。小龍の芸名でブルース・リーのソックリさん俳優としても知られている。)の家族を殺したことから恨みを買い、金蛇郎君の無差別攻撃により一族の多くが手にかかった。温家の娘・温儀(井莉)は金蛇郎君に誘拐されたがそこでふたりの間に恋が芽生え、そうして生まれたのが青青であった。ふたりの仲を許し婚礼を挙げさせることで両家のわだかまりを解こうと申し出た温家の当主・温方達(王力)は油断している金蛇郎君に毒酒を飲ませると、必殺の「温家五行陣」で宿敵に傷を負わせた。しかし止めは刺せなかったため、死んだことを知らない温家では長い間復讐に脅えていたのだ。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー袁承志が金蛇郎君に関係あると知るや次々と襲いかかってくる温一族。温南揚(鹿峯)、温方山(朱客)、温正(江生)らの猛攻にさしもの袁承志もタジタジだ。その時、温青青が盗んだ金を取り返しに華山派の一番弟子・黄真(朱鐵和)がやってきた。袁承志が一人で闘っているのを見た黄真、人呼んで「銅筆鉄算盤」の腕前を披露するも「温家五行陣」の前には手が出ない。兄弟子の闘いからヒントを得た袁承志は「温家五行陣」の中に飛び込むや、見事これを打ち破り金蛇郎君の無念と青青の仇を晴らした。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー原作を読まれた方なら、この映画化された部分がかなり原作に忠実なのがお分かり頂けると思います。素晴らしいのは武侠小説に出てくる秘技をトリックなしで実際に再現して見せる出演者達の技量でしょう。「銅筆鉄算盤」や「温家五行陣」といった技がいとも簡単に実現してしまうほどの人達が当たり前のように存在しえたこの時代の作品、この事実こそいまや失われてしまった香港映画の財産、だったのではないでしょうか?