『天才興白痴』'75年製作、監督:許冠文、主演:許冠文、許冠傑ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーゴールデンハーベスト時代のホイ兄弟作品の中で唯一の日本未公開作品で、多くのMr.Booファンがその公開を望んでいたが、精神病院を舞台にしたブラックな笑いが敬遠されたのか、四半世紀を経た現在に至るもビデオ化すらされていない。監督はこの時期なら当たり前だがマイケル・ホイ(許冠文)で、ブルース・リーの高校の同級生(名門ラサール高校出身)でもある彼は、教師や広告代理店などの仕事を経て香港TVB(ショウブラザース系列のTV局)へ。'68年「星辰盃按際問答比賽」という学校対抗クイズ番組の司会で人気を博し、長寿番組「歓楽今宵」の司会に抜擢。実はこの'68年から香港での広東語によるTV放送が本格化したのだが、喋り言葉で軽妙な語感を持つ広東語を巧みに操るマイケルのトークは、当時中国のローカル方言でしかなかった広東語の地位を押し上げた。常に大陸中国と英国との関係に頭を押さえられていた香港の庶民にとって、自分達の言葉で生き生きと話すマイケルは眩しく見えたに違いない。'70年には弟・サミュエル(許冠傑)と「雙星報喜」という自分の番組を持つ。自作自演のこの番組が後のホイ兄弟映画の基礎を成していたのだ。'72年に当時の香港最大の映画会社ショウブラザースに入社するも、同社の旧態以前の経営体質に嫌気がさし'74年にゴールデンハーベストの招きで移籍、同時に「許氏影業有限公司」を設立。『Mr.Boo!ギャンブル大将』を皮切りに'70年代の香港を代表するコメディ作品を連発した。本作『天才興白痴』はGHでの第二作目である。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーバイクで暴走しているサム(許冠傑)を白バイ警官(田俊:ドラゴン映画でお馴染み)が追っている。勤め先の"恒生病院"(有名な銀行と同じ名前ですね。)の前で身分証を見せると白バイ警官は諦めた。(何で?あっ、ちなみに広東語オンリーの字幕無しです。)サムはこの精神病院の看護士で、霊安室で看護婦とイチャイチャするなどかなり不真面目。金持ち(らしき)人物(馮穀:『ドラゴン怒りの鉄拳』の吉田師範)が視察に来ていても知らん顔。マイケルはここの雑役夫で、死んだ患者の金歯を盗むケチな男。この病院に喬宏(ロイ・チャオ:『燃えよドラゴン』の僧侶役他、『インディジョーンズ魔宮の伝説』まで出演する国際派。米陸軍として朝鮮戦争に従軍後、米軍として日本にも駐留、講道館柔道の黒帯でもある。)がやってくる。ここで喬宏は警察に引っ立てられて連れてこられるのですが、当時の香港の精神病院は犯罪でも犯さない限り金持ち専用だったのでしょうね。(ようするに他は野放し)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーふたこと目には"公主(プリンセス)"のこの喬宏、モールス信号を打ちながら潜水道具を身に付けている完全にイカれた男。だがこの男の持ち物から百年前(1870年代だな。西太后が実権持ってる頃だ。ということは欧米列強に中国が狙われている頃で、多くの美術品が海外に持ち出された時代でもある。)の陶器のかけらが出てきたことから、欲に目のくらんだサムとマイケルの騒動が始まる。骨董屋の主人(姜南:『帰って来たドラゴン』のボス役とか'70年代の功夫片常連役者。)に確認させると、ふたりは一攫千金の夢に胸を膨らませた。しかし頭のイカれた喬宏から情報を聞き出すのは至難の技で、ふたりはあの手この手を駆使するのだが旨くはいかない。(病院内のパーティの場面でサムが歌うシーンがあるのだが、ここでサムのバックを務めているのは"蓮花楽隊"の面々。サムが結成したバンド"ザ・ロータス"のメンバーだ。ここで歌っている曲は"天才白痴錢錢錢"という名曲です。旧ポリドールのレコードNo.2427303かCDの513 970-2に収録されています。)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあまりしつこく付きまとったので興奮した喬宏は心臓発作を起こして死亡。死後も脳は生きているという医者(ウォン・ツン:『ギャンブル大将』のカジノのボス)の言葉を思い出し脳波に語りかけると反応が。そこで唯一の手がかり"公主"を探しにリゾート地へ。ホテルのフロント(石天)を買収して泊り客の情報を得るが、アラブの王子(公主)だったり散々。(このアラブの王子の従者に蕭錦が出ている。香港映画で良く見るジャイアント馬場に似た巨人です。『Mr.Boo!』にも出ていましたね。)プールサイドで悪態をついていると潜水のインストラクター(艾綺蓮)が声をかけてきた。このプールの場面でリッキー(許冠英)がカメオ出演。(当時まだショウブラザースとの契約があったリッキーは出演出来なかった。本格的に参加するのは次作『Mr.Boo!』からで、日本ではあとから公開された『ギャンブル大将』にリッキー出演場面が加えられたのは有名な話。)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー実は"公主"は喬宏の娘で親子喧嘩の末に家を飛び出したままの娘を、頭のイカれた喬宏は幼少のあだ名で呼んでいたのだった。娘を連れて病院に帰ると脳波がモールス信号になっていることを突き止める。それは娘に残した父親の最後のメッセージで、ずっと娘のことを案じていたというものだった。(この映画の英題は『The Last Message』)この映画ここで終わっていた方がいい映画だったのだが、物語は蛇足的にまだ続くのだ。では、お宝は?という訳で娘の案内で沈没船の場所へ。そこからついにお宝を引き上げるが、骨董屋からずっと尾行していたふたりの刑事に押収されてしまった。実は喬宏は只の詐欺師で沈没船にガラクタを隠しておき、本物のかけらにダマされた骨董屋や美術商からお金を巻き上げていたのだった。苦労の末にガラクタを掴まされたマイケルはいかれてしまい、とうとう病院に患者として帰ることになるのだった・・・。