更新 [2001年10月27日(土)]

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 10/27日記更新。『ドランクモンキー酔拳』です
が、映画よりも酔拳と道教のお話です。

『ドランクモンキー酔拳(蛇形刀手第二集 酔拳)』 [2001年10月27日(土)]

『ドランクモンキー酔拳(蛇形刀手第二集 酔拳)』'78年製作、監督:袁和平、主演:成龍ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー香港で大ヒットを記録、ジャッキーをスターに押し上げた作品であり、彼の日本初登場作品でもある。劉家良によって本格的に持ち込まれたコメデイ功夫路線は、先行するサモハンなどの手によって徐々に確立の兆しをみせていたが、ジャッキーの陽性な個性と相まったこの『酔拳』によって完全に認知されたといってもよい。ヒットの要因は色々考えられるが、もちろん作品の出来が良かったことに尽きるのだが、この作品がもう少し中国民衆の深いところと関わっている事も決して無縁では無いはずだ。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー酔拳という拳法は実在する拳法で、元は「水滸傳」の"花和尚"魯智深(本名は魯達、智深の名は出家してからのもの。)の闘いようからからきている。北派の地[身尚]門に属し、この流派の特徴である地面に倒れても転がりながら闘う動きにさらなる工夫改良を加えたものだ。この酔拳の形の中に酔八拳(もしくは酔八仙拳)があり、映画でジャッキーがみせているのはこの形の映画的アレンジだ。酔八拳の中に出てくる八仙人はそれぞれ古くから伝わる仙人伝説に登場するもので、後に明代になって「東遊記」(著者:呉元泰)という小説にまとめられた。この八仙人伝説は、中国の土着宗教である道教と大きく関わってくるのだ。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー道教は儒教・仏教とならぶ中国の三教であるが、政治・倫理の思想を語り教養としての側面が高い儒教や、外来思想である仏教(ご存じのごとく仏教の伝来はインドからである。)に比べ、道教こそは中国民族(この場合広くは漢民族のこと)の生活習慣や思想に密着した民衆の信仰なのである。仙人伝説自体は道教よりも古くからあるのだが、道教はその伝説を取り込む事で徐々に体系つけられ宗教化していったといわれている。そして中国人に仙人といえば八仙人というほどポピュラーな存在の八仙人達は、道教の宗派の設立にも関わってくるのだ。道教の宗派のひとつに全真教というのがあるのだが、この全真教の祖・王重陽に"長生秘訣・金丹秘訣・青龍剣法"を教えたのが八仙のうちの漢鍾離と呂洞賓なのだ。道教の最高位にあるものを道士といい、この道士は法術を行ったり葬儀を取り仕切ったりする人で、また剣術の達人でもある。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーここで武侠小説家・金庸の小説を読んだことがあるならば全真教という宗派と王重陽の名前に見覚えがあるのではなかろうか?作者自身も好きな作品としてその名をあげる、作家・金庸の代表作「射G英雄傳」に登場する"中神通"が王重陽なのだ。未読の方に概要だけ説明しておくと、かつて武林のNo.1を争った5人に王重陽・洪七公・段智興・黄薬師・欧陽鋒がいた。結果、王重陽が1位となり彼を中心にそれぞれの縄張の方角と彼らのキャラクターから中神通(王重陽)・北丐(洪七公)・南帝(段智興)・東邪(黄薬師)・西毒(欧陽鋒)と呼び慣わした。王重陽は無論、作中重要な役割を持つ全真教の道士・丘処機は実在の人物である。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー八人の仙人達にはそれぞれ名前も逸話もあるので、簡単ながら紹介しておきます。(『酔拳』で蘇化子から奥義を得た黄飛鴻が、ひとりで演武する場面の登場順にそって紹介していきます。)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー*「呂洞賓」本名は呂純陽、「東遊記」に登場するのは第二十三回から。剣術に優れ軽功も得意、百余歳でも童子のようであったと伝えられる。名前の通り純で陽気な仙人。*「鉄拐李」本名は李玄、生まれつき足が不自由で鉄の杖をついていることから、人々に鉄拐の李と呼ばれた。「東遊記」には初回から登場する乞食の神様。*「漢鍾離」本名は鍾離権、漢代の生まれで漢鍾離ともいわれているが、これは誤りという説も。呂洞賓は彼の弟子で、王重陽に伝えた秘伝から全真教が生まれた事は先述。「東遊記」の登場は十一回から。*「藍采和」片足が裸足なので"赤脚大仙"の生まれ変わりといわれている。八仙図などでは女性のような格好をしていることもあるがれっきとした男性。別にゲイなどではなく、そのあまりの美しさに女性と間違われているだけのこと。「東遊記」の登場は十九回。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー*「張果老」本名は張果、高齢なので尊敬を込めて老をつけて呼ぶ。術には一番優れた人だが、白い蝙蝠の生まれ変わりともいわれている。「東遊記」には二十回から。*「曹国舅」宋の仁宗皇帝の皇后の弟といわれている。漢鍾離と呂洞賓に出会い仙界入りしたが、その登場は遅く全五十六回中の第四十五回から。*「韓湘子」唐の文筆家・韓愈の甥とされている。蕭管という笛の名手というが、後代によって考えだされたというのが定説。第三十回からの登場。*「何仙姑」八仙中唯一の女性。雲母を食し雲のごとく身が軽くなったと伝えられている。また人の禍福吉凶を占える占いの神様。第二十二回から登場。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー中国が生み、中国人が育てた道教と、そこにまつわる仙界説話こそが中国人のナショナリズムであり、それは古代より庶民の生活と文化を支えやがて信仰となっていった。そんな八仙人伝説をさりげなく持ち込んだ『酔拳』という作品が大衆に支持されたのは、偶然ではなく必然であったのいえるのではないだろうか。
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