邵氏特薦(八)『萬人斬』'80年製作、監督:桂治洪、主演:陳觀泰ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー昨年三月の特集に続いて、今年もショウブラ映画特薦です。(しかし一年たったというのに
『楚留香』以外発売されていないのはどうしたことだ?) ショウブラ映画ではないが、先頃発売されたジミーさん主演作『四大天王/怒れるドラゴン不死身の四天王』DVDに収録された、鹿村泰祥インタヴューにより、この『萬人斬』は高い志の元に製作された映画であることが判明した。監督の
桂治洪はショウブラ1のクセ者監督だが、この映画の製作された80年といえば、ジャッキー大ブレイク、サモハン、
劉家良の躍進、
古龍武侠片ブームと、百花繚乱の様相を呈した功夫・武侠片戦国時代である。あまり功夫・武侠片を専門には手がけなかった(張徹、楚原などに比べて)桂治洪だが、このブームに割って入るにあたって、ブームに乗っかっただけの作品を作るような真似はしなかった。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー清朝監軍使・曹達華は、宮廷から盗まれた金塊を10日以内に奪還するよう西太后より命じられる。曹達華は、その任務を果たせられるものは"萬人斬"と呼ばれる追跡・探索のプロ・陳觀泰のみであると答える。宝物殿の護衛は皆殺しにされ、目撃者や証拠はゼロという絶望的な任務を押し付けられた陳觀泰の探索が始まる。泥棒のネットワークを介して容疑者を追い詰めていくが、肝心の金塊も犯人も見つからない。"萬人斬"と呼ばれるだけあって任務には非情な陳觀泰、たとえ相手が命乞いをしても容赦はしない。この追跡行で陳觀泰が出会う窃盗団との対決が本作の見所だ。薙刀使いの李春華、毒ナイフの白彪、"水[區鳥]流残馬脚"(命名fake)の權永文など、顔ぶれも豪華だし、陳觀泰との対戦もレアだ。武術指導を担当したのが鹿村で、先述のインタヴューによれば桂治洪直々のご指名だったとか。その時の桂治洪からのリクエストというのが、ワイヤー、トランポリンは使用せず、人間に出来る動きに限定した殺陣をつけて欲しいというものだったそうだ。当時のブームに一矢報いるつもりで製作されたこの映画の志の高さは、こういうところに表れているのだ。VS白彪ではファンの期待を実現させつつ、意外な結末で勝負を終わらせたり、蹴り技の得意な權永文との対決では、あえて足場の悪い水際で闘わせたりしている。この時の撮影ではゴツゴツした岩場の海岸だったため、水の中に板を敷いて撮影したとはその鹿村の弁。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー谷峯との雨中での決戦という名場面を挟んで、瀕死の谷峯から真相を聞かされる陳觀泰。この事件の首謀者は監軍使である曹達華その人であった。"銀壇鐵漢"曹達華にとって一世一代の悪役演技であるのは言うまでもない。紫禁城から帰宅途中、籠に乗った曹達華一行に襲撃をかける陳觀泰。工藤栄一監督の傑作時代劇『大殺陣』における、里見浩太郎の切り込みシーンを思わせる凄まじいラスト。最後まで曹達華に従い、陳觀泰に立ちはだかる護衛役に、黄培基と共に鹿村の助手を務めた元華。これもレアな対戦やなぁ。最後のオチまでは触れませんので、それはみなさんでご確認下され。最後に、鹿村さんが披露したこの映画の驚愕の裏話を。李春華との薙刀対戦で、当たり所の悪かった陳觀泰は、何と!小指を切り落とされてしまったらしいのです。拾った小指を持ってすぐさま病院に行ったらしいのですが、指をつけることは可能だが、それでは完治に一年を要すると言われたそうです。指をつけないのであれば撮影再開は可能であったらしいのですが、桂治洪以下スタッフは手術を選択。陳觀泰の完治を待って一年後に撮影を再開させたそうです。