『馬哥波羅』'75年製作、監督:張徹、主演:傅聲ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー馬哥波羅=マルコ・ポーロと読む。当たり前かもしれないが、一応。という訳で、この映画はマルコ・ポーロなのだ。 「東方見聞録」で有名なマルコ・ポーロは1254年にヴェネツィアで生まれた。商人だった父の後を継ぎ、シルクロードを越え、当時"元"が支配する中国へとたどり着く。"元"のフビライ(クビライ)・カーン(ハン)からの信任を得たマルコは、通行手形を貰いフビライの使節として、雲南からミャンマー、モンゴル各地を旅して廻った。 その旅の途中で日本にも訪れ、黄金の国ジパングとして「東方見聞録」でヨーロッパに紹介された。17年もフビライに使えたが、1295年に帰国。ヴェネツィアが隣国のジェノヴァと戦争を始めマルコも参戦。その戦いで捕虜となったマルコが、獄中で作家のルスティケロに語った話が「東方見聞録」になったのである。 ところで、17年もの長きに渡って仕えたマルコの名前は"元"の正史には見当たらなかったりする。それを持ってマルコ・ポーロは実はインチキだったのではないか?という説がある。が、「東方見聞録」に書かれたアジアの事象や風俗描写は、実際に体験したものでなければ書けないものとも。 マルコ・ポーロがアジアを廻ったのは嘘ではないだろう。だが実際には西アジアの一部に滞在しただけで、そこを通る交易商人より聞いた話をまとめたものが、「東方見聞録」として残されたのではなかろうか。実は"見聞録"ならぬ、"伝聞録"であったというのが、歴史の真実であろう。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー映画はフビライ(李桐春)の元へと訪れたマルコ(リチャード・ハリスン)が、"元"の使節としてモンゴル人の使い手、王龍威、梁家仁、劉家輝らと反・元朝の刺客と闘うところから始まる。 暗殺騒ぎの下手人を探る旅で、反・元朝を志す若者たち(傅聲、戚冠軍、郭追、唐炎燦)と出会い、彼らが王龍威らを倒すまでを見届ける。 お話としては何がマルコ・ポーロなのか皆目意味不明なドラマだが、元朝を倒す為、傅聲たちが修行をする場面が
『洪拳興詠春』で試みた練功描写を一歩進める段階に達しているのが興味深い。 怪力を有するモンゴル人に対抗するため、それぞれが無敵の鐵布杉を習うのだが、速成修行の彼らは部分的にピンポイントで技を学ぶ。師匠とのやりとりや、修行の方法に後の"練功小子片"にみられるものの初期段階が見て取れ、とりわけ傅聲のキャラクター造形や演技は、間違いなくジャッキー・チェンに影響を与えている。 ブルース・リー二世を押し付けられそうだったジャッキーは、更に似合わない古龍武侠片の二枚目役をやらされていく中で、傅聲的アプローチに映画界で生き抜く活路を見出した。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー張徹作品としては物足りない出来の映画だが、この映画は三つの点で歴史に残るのだ。 そのひとつがフビライを演じる李桐春の出演だ。台湾京劇界にその名を残す名優中の名優・李桐春が映画出演することは非常に稀で、この映画の他はジャッキーと共演した『拳精』くらいしかない。この『馬哥波羅』では堂々のフビライ役で特別出演を果たし、『拳精』では悪の少林寺管長としてジャッキーと対戦。その存在感を示した。 もうひとつはタイトル・ロールのマルコを演じたリチャード・ハリスンの存在だろう。マカロニ・アクションがブームになった60年代、アメリカの売れない俳優たちは海の向こうイタリアで己の可能性に賭けた。クリント・イーストウッド、リー・ヴァン・クリーフという成功例も生んだが、このリチャード・ハリスンのようにブームに埋没した人間もいる。 当時の香港映画では格上の方の西洋スターだが、面白いのはここからのハリスンの人生だ。彼が演じたマルコ・ポーロは、東洋に魅せられその地に長居してしまったが、後ろ髪を引かれつつ西洋に帰っていく男だ。だが実際のハリスンは違う。アメリカから裸一貫でイタリアへと出稼ぎに訪れ、夢破れたにも関わらずアジアの果てに流れ着き、更にはその場に居付いてしまったのだ。香港に限らず、フィリピンやタイの映画で時折再会するリチャード・ハリスンの雄姿には、男の覚悟とはどういうものか?を、まざまざと見せ付けられるのだ。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー最後は功夫映画ファン狂喜のサプライズ、黄家達(カーター・ワン)の出演だ。冒頭、フビライを狙った刺客としてノンクレジットで登場。ゴールデンハーベスト生え抜きの黄家達が、ショウブラ生え抜きの王龍威、劉家輝、梁家仁らと拳を交える場面は、ファンにとっては無条件の"買い"要素であろう。 後に台湾独立プロの雄として君臨する黄家達は、ハーベストへの復帰も、ショウブラへの再登場も無かった。これぞ正真正銘のレア対戦というやつである。 先ごろ来日しインタヴューに答えたところによれば、ちょうどハーベストとは契約が切れたところで、その隙をついた張徹の誘いに旨く応じられたことで実現したものだったそうだ。 敵として傅聲や戚冠軍に立ちはだかる役どころも見たかったが、ここは歴史の偶然がもたらした邂逅を素直に喜びたいものである。