『MURDER BY DEATH/名探偵登場』 [2007年11月07日(水)]

『MURDER BY DEATH/名探偵登場』'76年製作、監督:ROBERT MOORE、出演:PETER FALK他

 原題は『MURDER BY DEATH』、つまり“死による殺人”。“DEATH BY MURDER/殺人による死”ではないところがミソで、この映画が推理小説のパロディであることを示している。

 オリジナル脚本を書いたのはニール・サイモン、映画化もされた戯曲「おかしな二人」や「サンシャイン・ボーイズ」などの舞台脚本が有名だが、映画用の脚本も書き下しており、本作はその一本にあたる。元はTVのバラエティ番組「ユア・ショウ・オブ・ショウズ」の構成作家であった。
 '50年より米NBC・TVで始まった「ユア・ショウ・オブ・ショウズ」は、コントあり、歌ありのバラエティ番組で、シド・シーザー、カール・ライナー、イモジン・コカらをメイン・パフォーマーに、その時々のゲストを迎えて生放送で演じられた。後に「サタデー・ナイト・ライブ」を起こしたプロデューサーのローン・マイケルズが、番組開始時に“「ユア・ショウ・オブ・ショウズ」のような番組を・・・”といってTV局を説得したほどの番組だった。

 この「ユア・ショウ・オブ・ショウズ」出身の構成作家には、ニール・サイモンの他にも、ウディ・アレン、メル・ブルックスがいた。彼らが映画界で活躍始める'60後半〜'70年代前半は、コメディ映画不作の時代で、「ユア・ショウ・オブ・ショウズ」出身者が競い合うことで引っ張った時代でもある。ライバルのアレンが『ボギー!俺も男だ』、ブルックスが『新サイコ』を作ったことへの、ニール・サイモンなりの返答が『名探偵登場』といえようか。

 映画にはノベライズもあって、日本でも過去に発売されたことがある。著者はニール・サイモンとなっていたが、実際に小説化を担当したのはヘンリー・レイモンド・フィッツウォルター・キーティング(H・R・F・キーティング)。推理小説ファンには「ボンベイの毒薬」や「パーフェクト殺人」などの“ゴーテ警部”シリーズが有名だろう。

 映画の基本となるネタは、アガサ・クリスティの名作「そして誰もいなくなった」。ユリック・ノーマン・オーエン氏なる謎の人物からの招待を受けた客たちが、孤島でひとりまたひとりと謎の死を遂げていく。
 『名探偵登場』も謎の大富豪ライオネル・トウェイン氏の招待を受けた世界の名探偵たちが、富豪の屋敷に閉じ込められ謎の事件を推理していくのだ。
 ユリック・ノーマン・オーエンという名前が、UNOWEN=UNKNOWN(誰でもない)に聞こえる遊びが、『名探偵登場』ではトウェイン邸宅の所在地ローラ・レイン22の下にトウェインと表札を入れることで、“22トウェイン=チューチュー・トレイン(「恋の片道切符」by ニール・セダカ)”と読ませる、という具合に受け継がれている。

 招待される名探偵は五人(それぞれにお供がついて、招待客自体は十人。テン・リトル・インディアンである)。

 ピーター・フォーク扮するサム・ダイヤモンドは、言わずと知れたダシール・ハメットの「マルタの鷹」に登場するサム・スペード。原作よりも、映画版でスペードを演じたハンフリー・ボガートのパロディ(ミステリーとは関係ない『カサブランカ』のパロディも登場)になっており、この物まねが秀抜だったことからボギー映画のパロディ『名探偵再登場』が生まれた。フォークのお供は秘書だか情婦だかわからない(それ故にハードボイルドチックな)アイリーン・ブレナン。

 ジェームズ・ココ演じるムッシュー・ミロ・ペリエは、アガサ・クリスティ創作のベルギー人探偵エルキュール・ポワロ。美食家で皮肉屋、人の好き嫌いが激しい名探偵といえばもうひとり、レックス・スタウトのネロ・ウルフ・シリーズも思い出される。両方の要素が入っているようにも感じられるが、ジェームズ・ココはポワロの雰囲気を濃厚に残して演じている。ポワロにヘイスティングス大尉という友人兼冒険のお供がいたように、ペリエにもジェームス・クロムウェル扮する運転手マルセルがついている。

 デビッド・ニブン&マギー・スミスの英国コンビが扮するのは、おしどり探偵デイックとドーラのチャールストン夫妻。ダシール・ハメットの「影なき男」(シリーズ化はされずこれ一作のみ、映画化されてヒットし、映画版はシリーズ化された。演じるはウイリアム・パウエルとマーナ・ロイ)に登場する、ニックとノーラのチャールズ夫妻がモデルであるが、アメリカ人のハメットの小説よりも、ニブンとスミスの醸し出す英国的な雰囲気は、アガサ・クリスティが創作したトミーとタッペンスのおしどり探偵を思い出す。こちらはペリエと違って両方の要素が濃厚だ。

 エルザ・ランチェスターのジェシカ・マーブルは、これも有名なアガサ・クリスティの手によるジェーン・マープルが元ネタ。エステル・ウィンウッド扮する看護婦のミス・ウィザーズは、マープル女史の話し相手クリザリング卿か?はたまた甥のレイモンド・ウエスト?

 ピーター・セラーズ怪演のシドニー・ワン警部は、アール・D・ビガーズ創作のチャーリー・チャン警部だ。戦前には大人気で50本くらいの映画シリーズがある。ブルース・リーのアメリカ時代、「グリーン・ホーネット」の前に企画されていた「ナンバーワンの息子」は、このチャーリー・チャン警部の息子という設定だった。オリジナルのチャーリー・チャンも、へんな中国なまりの英語を話し、時折ことわざをいうのであるが、ピーター・セラーズは恐ろしくカリカチュアしてこの怪人物を演じている。シドニー・ワン警部の養子ウィリーが、ナンバーワンの息子ということになるが(苦笑)、演じるは日系のリチャード・ナリタ。
 この役、そもそもはオーソン・ウェルズでキャスティングされていたらしいが、スケジュールの都合でキャンセル。ちょっと想像できないのだが、これはこれで見てみたい。ちなみに、ウェルズといえば、'74年版『そして誰もいなくなった』でユリック・ノーマン・オーエン氏を演じて(?)います。

 映画版では省略されたエピソードだが、小説ではミステリー・マニアのライオネル・トウェイン氏が、百万冊目の推理小説を叩き付けるところかに物語がスタートする。この時トウェイン氏が叩き付けているのはキーティング作のゴーテ警部モノ。
 殺人パーティ開催の動機が、くだらない探偵小説(そのモデルとなっている名探偵たち)への復讐であり、推理小説マニアの怒りの声を代弁することなのだ。
 原作と映画最大の違いが、この冒頭部分と盲目の執事ベンスンとのやりとりで、屋敷のあちこちに仕掛けられた小型カメラで、常に二人は探偵たちの行動を監視しているのである。

 ライオネル・トウェイン氏を演じているのは、何と「冷血」を書いた作家のトルーマン・カポーティ。出演はしなかったが、オーソン・ウェルズのお墨付きを貰ってのキャスティングだった。なおトウェイン氏の容貌については、小説中にもカポーティそっくりと書かれている。

 執事という職業は推理小説には欠かせない人物だが、俗に“最も胡散臭く、最も疑わしい人物”であり、同時に“絶対に犯人であってはならない人物”と定義されている。執事が犯人であったりする推理小説が存在したら、それは駄作中の駄作なのだ。
 小説版はそこを逆手に取ってあり、熱烈な推理小説マニアである点は主人のトウェイン氏と同じでありながら、探偵たちをこよなく尊敬しているベンスンは、理不尽な主人の要求に渋々従っているにすぎない。つまり、彼には動機が存在するのだ。

 執事ベンスンを演じたのは名優サー・アレック・ギネス。出演依頼も恐る恐るであったらしいが、この名優は喜々として引き受けてくれたそう。風格ある英国執事の佇まいは、この人の名演技あってこそ。撮影途中で現場を覗いたニール・サイモンが、休憩時間に次回作の脚本を熱心に読んでいるギネスに遭遇。次回はどんな作品ですか?と尋ねたところ、「未来の話だ・・・」と答えたという。その次回作のタイトルは『スター・ウォーズ』であった。

 さて、事件はおこるのだが、何重にも仕掛けがあって探偵たちの頭を悩ませる。消失する部屋のトリックはジョン・ディクスン・カー(カーター・ディクスン)の「不可能犯罪捜査課」の一遍「見知らぬ部屋の犯罪」を思わせるし、部屋に侵入する毒蛇はコナン・ドイルのホームズ物「まだらの紐」からだろう。

 ホームズといえば、あまりにも有名な探偵シャーロック・ホームズは何故招待されていないのか?

 実は、映画版の本当のオチは、キース・マコンネルとリチャード・ピール扮するホームズとワトソンによって、鮮やかに解決されるというものだった。キャスティングされた俳優たちは、出番もあまり多くないことから、知名度よりもホームズたちを連想させるイメージが優先されたらしく、無名の俳優でキャスティングされた。
 ところが、これに他の有名スターたちからクレームがついた。無名の俳優にオチをさらわれることに難癖をつけたスター(一説にはピーター・フォークだといわれている)のクレームで、この場面は撮影されたが本編からはカットされてしまったのだ。
 アメリカでも一部の州だけではホームズオチのバージョンが公開されたらしいが、TV放映、ビデオ、LDから、DVDの現在に至るまでこのバージョンは特典にすら収録されたことがない。幻のバージョンなのである。
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