『密宗聖手』 [2007年11月29日(木)]
『密宗聖手』'76年製作、監督:黄楓、主演:茅瑛
・・・という訳でアンジェラ・マオです。まあ、こういうのは季節ものだから(笑)。
間違いなく、この映画と『破戒』が彼女の代表作といえる完成度だろう。それは監督の黄楓にとっても同じことが言える訳で、アンジェラとの仕事はベスト・コラボだった。
胡金銓によって武侠片新世紀の扉が開けられてから、張徹浪漫暴力路線、李小龍凱旋による功夫片ブームと続いた歴史にも、スーパースターの死によりひと段落がつけられる。
ブームのピークは'73年まで、'74年〜'76年までの3年間は、功夫武侠片にとって雌伏の時代にあたり、製作本数も激減したが、ヒット作に恵まれないという現実が低迷を現していた。
この『密宗聖手』はそんな時代の作品で、'76年の年間興行配収では18位、112万香港ドルは立派な数字だ。なにせこの年の興行記録を見ても、トップ20位に食い込んだ功夫武侠片は『流星・胡蝶・劍』の6位、『陸阿采興黄飛鴻』10位、『李小龍傳奇』の14位、『獨臂拳王大破血滴子/片腕カンフー対空とぶギロチン』の15位に『密宗聖手』の5本しかランクインしていないことがそれを物語っている。
この年の『流星・胡蝶・劍』ヒットから古龍武侠片ブームが生まれ、翌年サモハンの台頭、'78年に『蛇拳』がヒットして練功小子片の時代が訪れる流れは、このブログでは何度も取り上げた重要な点である。よって再度の確認をしておきたい。
ストーリーを紹介する前に正直に告白するが、実は完全版は今回初めて観た。以前持っていたブートは1時間30分くらいの短縮版(オリジナルは1時間50分)で、特にラストの対決がほとんどカットされたものであった。逆に言えばストーリー・ラインはほとんど残っているので、映画の全体像は掴めるのだが、肝心のアクションはズタズタになっていたのである。ジャッキー・チェンの登場場面(アップで映る場面)もカットされており、どこに出ているのだろう?と疑問だったのだが(苦笑)、今回FSから出たバージョンで全てを確認出来た次第。
そのジャッキーだが、この映画と同年には『新精武門』に出演するのですよ。『密宗聖手』が'76/2/20公開、『新精武門』が'76/7/8公開、公開は'76/7/15と遅れましたが、『密宗聖手』と『新精武門』の間には『少林門』にも出演している訳で、何かジャッキーの身辺が慌ただしい時期に当たりますね。そんなことも考えながら『密宗聖手』におけるジャッキー出演場面を見て欲しいものであります。劇中、茅瑛の結婚式場面で、来賓を迎える韓英傑の後ろに元華と共に控えている場面でアップになります。アクション場面のスタントにも出ているはずですが、そちらは確かなことを言えるカットは少ないですね。
さてストーリー、チベット密教の秘術が絶えて久しいことが説明され、ヒマラヤ山脈でのロケ場面に繋がります。この映画、ちゃんと現地で撮影されており、その丁寧なロケーションが素晴らしい効果を生んでいます。
チベット国境付近に住む山岳地帯の漢民族・關山は、南七省水陸碼頭幇を統べる頭領で、娘の茅瑛が年頃になったたため、遊牧民系民族の頭目・陳星の弟・凌漢との婚礼の準備を進めていた。
この冒頭部分の短いカットで、お互いの人物関係を理解させる黄楓の演出手腕が素晴らしく、關山の腹心・韓英傑、アンジェラに恋心を抱く譚道良、馬賊・洪金寶、魯俊谷(GH出演は珍しい!)、陳星の手下・楊威、元奎、李家鼎、陳會毅などの位置関係も全て解るようになっているのだ。
遊牧民の誇りを大切にする凌漢はこの縁組に反対だ。というのも、兄の陳星は裕福な漢民族の資産だけが目当ての政略結婚に自分を利用しようとしているからだ。
渋る凌漢を殺害する陳星。この展開にも驚かされるが、実は既に凌漢のそっくりさんを用意しており、あくまで財産目当ての悪辣な男であることが強調される。この映画と『四大門派』(監督は黄楓)における陳星の悪巧みは徹底されており、功夫映画中でも随一の悪人振りを見せている。
殺しの現場を馬賊の魯俊谷に見られているさりげない演出が、後のストーリー展開に影響を与えるなど、脚本(倪匡)・演出共に隙は全く無い。
關山の家には女中として王恩姫が入り込んでおり、彼女はスパイとして關山家の内情を知らせている。凌漢のそっくりさんは、家族にいい仕事が入ったと言い残し家を出るが、彼の妻は得体のしれない高額報酬の仕事に危惧する。そして彼女の杞憂はやがて現実のものとなる・・・。
婚礼が近づき、凌漢殺しを脅迫にきた魯俊谷を殺すことで、陳星が恐るべき虎爪功・五虎斷魂拳の使い手であることが示される。その間に王恩姫は譚道良を誘惑、これも実は計略の一部なのだ。
そして婚礼の夜、アンジェラの声帯を五虎斷魂拳で潰し眠らせた後、さらに凌漢にアンジェラが譚道良と密通していたと訴えさせる。探しに出た關山が暗がりで見たものは、アンジェラそっくりの衣装を着た王恩姫が譚道良と抱き合っている姿だった。
逃げる際に飛刀(關山のもの)を飛ばし更に關山を怒らせ、あらぬ疑い(本人は王恩姫とのことを怒られていると思っているが)をかけられた譚道良に責任を迫る。その間に陳星は凌漢を殺害し、現場に飛刀と気絶しているアンジェラを残す。間一髪で逃げ出した譚道良だったが、その後屋敷で何が起こっているかは知る由も無かった。
声帯を潰されて弁解出来ないアンジェラは、一族の掟に従い戸板流しの刑に。殺された弟の賠償責任を問う陳星に、娘婿の親族として財産を譲ることを承諾してしまう關山。戸板で流されている女性(服装は密会していた時の王恩姫と同じ)を助けた譚道良、それがアンジェラだったと知り二重に驚く。喋れるまでに回復したアンジェラの口から、陳星の卑劣な計略を知るが、二人の腕では歯が立たないことも事実であった。
実は本物の凌漢には額に痣があったのだが、偽物はペイントで誤魔化していた。死体を検分していた韓英傑はトリックを見破るが、騒ぎ立てずに關山に知らせた。先手を打った陳星は、凌漢の首を切り川に流す。この首が流れて川下にたどり着く頃、アンジェラ一行もそばを通りかかっていた。首は偽物の出身村に流れ着いていた、これも運命か。変わり果てた夫の姿に泣き叫ぶ妻、凌漢だと思っていたアンジェラもショックで倒れ込む。
全ての計略を知ってもどうすることも出来ない。陳星を倒すため、幻のチベット密教の秘術・密宗聖手を会得するため、寺院を目指すふたり。
寺院では關仁館長の元、厳かな修行が続けられていた。修行させて貰えるよう頼み込むふたりに与えられたのは、石積みという地味な作業。地味とはいっても、篭に入れた石を頭にくくり付け山を昇り降りするのは並大抵ではない。知らず知らずのうちにだが、基本姿勢と呼吸法を学んでいく。ふたりの修行が実用段階に入る頃、陳星の悪事を疑う韓英傑は、証拠探しに奔走していた。病気がちな關山につけられる張景玻、ジャッキー、元華、杜偉和らの護衛。
韓英傑の動きに先立って刺客を送った陳星は、ついに關山に対しても牙を向ける。韓英傑も陳星の手下に殺され、実権を握った陳星の祝いに馬賊の洪金寶が訪れる。サモの助っ人によって關山の命も風前の灯となった時、救出のため下山したアンジェラ、譚道良と陳星軍団との間に、最終決戦の時が訪れた!
關仁から虎爪功破りの秘策を授かったアンジェラは楊威ら四天王と、譚道良はサモと闘う。彼らを倒しても次々と登場するザコ敵を倒し、陳星を追い詰める。かつてのブートはここからがズタズタであったが、今回はノーカットだ!(笑) 譚道良VS陳星なぞ、独立プロでも度々闘っているが、それらとは格段に素晴らしい闘いである。こうなると武術指導だけの問題ではなく、全体の構成力がものを言うな。ふたりの闘いを追うようなカメラアングルに、映画はつくづく総合芸術であることを思い知らされるのだ。
アンジェラも負けてはいない、かつて倉田とド突きあった頃の迫力を取り戻した感もある陳星相手に一歩も引かず、この映画が彼女の代表作になるであるだろうことを肌で感じているかのようだ。
力の敵にはカウンターこそ重要!それが虎爪功破りの秘策だった。關仁のところでの修行を思い出したふたりによって、ついに最後を迎える陳星。
關山を守る場面で陳星とジャッキーの絡みも実現するが、この数カ月後には主演スターとして君臨し、当の陳星を迎え撃っていることや、關山をいたぶるサモの姿に、何年後かの映画では娘にセクハラしている姿が目に浮かび、傑作の影に年月の重みを垣間見るfakeであった・・・。
・・・という訳でアンジェラ・マオです。まあ、こういうのは季節ものだから(笑)。
間違いなく、この映画と『破戒』が彼女の代表作といえる完成度だろう。それは監督の黄楓にとっても同じことが言える訳で、アンジェラとの仕事はベスト・コラボだった。
胡金銓によって武侠片新世紀の扉が開けられてから、張徹浪漫暴力路線、李小龍凱旋による功夫片ブームと続いた歴史にも、スーパースターの死によりひと段落がつけられる。
ブームのピークは'73年まで、'74年〜'76年までの3年間は、功夫武侠片にとって雌伏の時代にあたり、製作本数も激減したが、ヒット作に恵まれないという現実が低迷を現していた。
この『密宗聖手』はそんな時代の作品で、'76年の年間興行配収では18位、112万香港ドルは立派な数字だ。なにせこの年の興行記録を見ても、トップ20位に食い込んだ功夫武侠片は『流星・胡蝶・劍』の6位、『陸阿采興黄飛鴻』10位、『李小龍傳奇』の14位、『獨臂拳王大破血滴子/片腕カンフー対空とぶギロチン』の15位に『密宗聖手』の5本しかランクインしていないことがそれを物語っている。
この年の『流星・胡蝶・劍』ヒットから古龍武侠片ブームが生まれ、翌年サモハンの台頭、'78年に『蛇拳』がヒットして練功小子片の時代が訪れる流れは、このブログでは何度も取り上げた重要な点である。よって再度の確認をしておきたい。
ストーリーを紹介する前に正直に告白するが、実は完全版は今回初めて観た。以前持っていたブートは1時間30分くらいの短縮版(オリジナルは1時間50分)で、特にラストの対決がほとんどカットされたものであった。逆に言えばストーリー・ラインはほとんど残っているので、映画の全体像は掴めるのだが、肝心のアクションはズタズタになっていたのである。ジャッキー・チェンの登場場面(アップで映る場面)もカットされており、どこに出ているのだろう?と疑問だったのだが(苦笑)、今回FSから出たバージョンで全てを確認出来た次第。
そのジャッキーだが、この映画と同年には『新精武門』に出演するのですよ。『密宗聖手』が'76/2/20公開、『新精武門』が'76/7/8公開、公開は'76/7/15と遅れましたが、『密宗聖手』と『新精武門』の間には『少林門』にも出演している訳で、何かジャッキーの身辺が慌ただしい時期に当たりますね。そんなことも考えながら『密宗聖手』におけるジャッキー出演場面を見て欲しいものであります。劇中、茅瑛の結婚式場面で、来賓を迎える韓英傑の後ろに元華と共に控えている場面でアップになります。アクション場面のスタントにも出ているはずですが、そちらは確かなことを言えるカットは少ないですね。
さてストーリー、チベット密教の秘術が絶えて久しいことが説明され、ヒマラヤ山脈でのロケ場面に繋がります。この映画、ちゃんと現地で撮影されており、その丁寧なロケーションが素晴らしい効果を生んでいます。
チベット国境付近に住む山岳地帯の漢民族・關山は、南七省水陸碼頭幇を統べる頭領で、娘の茅瑛が年頃になったたため、遊牧民系民族の頭目・陳星の弟・凌漢との婚礼の準備を進めていた。
この冒頭部分の短いカットで、お互いの人物関係を理解させる黄楓の演出手腕が素晴らしく、關山の腹心・韓英傑、アンジェラに恋心を抱く譚道良、馬賊・洪金寶、魯俊谷(GH出演は珍しい!)、陳星の手下・楊威、元奎、李家鼎、陳會毅などの位置関係も全て解るようになっているのだ。
遊牧民の誇りを大切にする凌漢はこの縁組に反対だ。というのも、兄の陳星は裕福な漢民族の資産だけが目当ての政略結婚に自分を利用しようとしているからだ。
渋る凌漢を殺害する陳星。この展開にも驚かされるが、実は既に凌漢のそっくりさんを用意しており、あくまで財産目当ての悪辣な男であることが強調される。この映画と『四大門派』(監督は黄楓)における陳星の悪巧みは徹底されており、功夫映画中でも随一の悪人振りを見せている。
殺しの現場を馬賊の魯俊谷に見られているさりげない演出が、後のストーリー展開に影響を与えるなど、脚本(倪匡)・演出共に隙は全く無い。
關山の家には女中として王恩姫が入り込んでおり、彼女はスパイとして關山家の内情を知らせている。凌漢のそっくりさんは、家族にいい仕事が入ったと言い残し家を出るが、彼の妻は得体のしれない高額報酬の仕事に危惧する。そして彼女の杞憂はやがて現実のものとなる・・・。
婚礼が近づき、凌漢殺しを脅迫にきた魯俊谷を殺すことで、陳星が恐るべき虎爪功・五虎斷魂拳の使い手であることが示される。その間に王恩姫は譚道良を誘惑、これも実は計略の一部なのだ。
そして婚礼の夜、アンジェラの声帯を五虎斷魂拳で潰し眠らせた後、さらに凌漢にアンジェラが譚道良と密通していたと訴えさせる。探しに出た關山が暗がりで見たものは、アンジェラそっくりの衣装を着た王恩姫が譚道良と抱き合っている姿だった。
逃げる際に飛刀(關山のもの)を飛ばし更に關山を怒らせ、あらぬ疑い(本人は王恩姫とのことを怒られていると思っているが)をかけられた譚道良に責任を迫る。その間に陳星は凌漢を殺害し、現場に飛刀と気絶しているアンジェラを残す。間一髪で逃げ出した譚道良だったが、その後屋敷で何が起こっているかは知る由も無かった。
声帯を潰されて弁解出来ないアンジェラは、一族の掟に従い戸板流しの刑に。殺された弟の賠償責任を問う陳星に、娘婿の親族として財産を譲ることを承諾してしまう關山。戸板で流されている女性(服装は密会していた時の王恩姫と同じ)を助けた譚道良、それがアンジェラだったと知り二重に驚く。喋れるまでに回復したアンジェラの口から、陳星の卑劣な計略を知るが、二人の腕では歯が立たないことも事実であった。
実は本物の凌漢には額に痣があったのだが、偽物はペイントで誤魔化していた。死体を検分していた韓英傑はトリックを見破るが、騒ぎ立てずに關山に知らせた。先手を打った陳星は、凌漢の首を切り川に流す。この首が流れて川下にたどり着く頃、アンジェラ一行もそばを通りかかっていた。首は偽物の出身村に流れ着いていた、これも運命か。変わり果てた夫の姿に泣き叫ぶ妻、凌漢だと思っていたアンジェラもショックで倒れ込む。
全ての計略を知ってもどうすることも出来ない。陳星を倒すため、幻のチベット密教の秘術・密宗聖手を会得するため、寺院を目指すふたり。
寺院では關仁館長の元、厳かな修行が続けられていた。修行させて貰えるよう頼み込むふたりに与えられたのは、石積みという地味な作業。地味とはいっても、篭に入れた石を頭にくくり付け山を昇り降りするのは並大抵ではない。知らず知らずのうちにだが、基本姿勢と呼吸法を学んでいく。ふたりの修行が実用段階に入る頃、陳星の悪事を疑う韓英傑は、証拠探しに奔走していた。病気がちな關山につけられる張景玻、ジャッキー、元華、杜偉和らの護衛。
韓英傑の動きに先立って刺客を送った陳星は、ついに關山に対しても牙を向ける。韓英傑も陳星の手下に殺され、実権を握った陳星の祝いに馬賊の洪金寶が訪れる。サモの助っ人によって關山の命も風前の灯となった時、救出のため下山したアンジェラ、譚道良と陳星軍団との間に、最終決戦の時が訪れた!
關仁から虎爪功破りの秘策を授かったアンジェラは楊威ら四天王と、譚道良はサモと闘う。彼らを倒しても次々と登場するザコ敵を倒し、陳星を追い詰める。かつてのブートはここからがズタズタであったが、今回はノーカットだ!(笑) 譚道良VS陳星なぞ、独立プロでも度々闘っているが、それらとは格段に素晴らしい闘いである。こうなると武術指導だけの問題ではなく、全体の構成力がものを言うな。ふたりの闘いを追うようなカメラアングルに、映画はつくづく総合芸術であることを思い知らされるのだ。
アンジェラも負けてはいない、かつて倉田とド突きあった頃の迫力を取り戻した感もある陳星相手に一歩も引かず、この映画が彼女の代表作になるであるだろうことを肌で感じているかのようだ。
力の敵にはカウンターこそ重要!それが虎爪功破りの秘策だった。關仁のところでの修行を思い出したふたりによって、ついに最後を迎える陳星。
關山を守る場面で陳星とジャッキーの絡みも実現するが、この数カ月後には主演スターとして君臨し、当の陳星を迎え撃っていることや、關山をいたぶるサモの姿に、何年後かの映画では娘にセクハラしている姿が目に浮かび、傑作の影に年月の重みを垣間見るfakeであった・・・。








