第25回 [NGN ブームなき放送・通信融合サービス - 米国の次世代トリプル・プレーを占う]その2 [2008年02月06日(水)]
Verizon
ベライゾン・コミュニケーションズは2005年9月から“FiOS TV(ファイオス・テレビ)”を軸とするトリプル・プレーを開始している。
FiOSは光ファイバーを家庭まで伸ばすFTTH方式だが、ビデオの伝送方式は一般CATV網と同じようにRFとIPを併用する。CATV方式で信号を光ファイバー網に載せているため、FiOSは光CATV方式と呼ばれることもある。FiOSの場合、光ファイバーを家庭に引き込む段階で従来の電話線をはずしており、従来のアナログ電話は光回線を利用したVoIP電話になる。その意味では、本格的なトリプル・プレーといえる。
2006年9月、同社は光ファイバー網整備およびFiOSサービスに関する事業目標を発表した。
FTTH網の建設規模は1,800万世帯(2010年末)とし、2009年には黒字をめざす。総建設投資は180億ドル(約2兆円、2004年から2010年)と積算し、契約獲得目標はFiOS DATAで600万から700万、FiOS TVで300から400万加入を狙っている。
2007年9月段階、光ファイバーの敷設規模は850万POP(世帯)で、FiOS TVの契約数は71万7千加入、FiOS Dataは129万6,000加入となっている。これは市場占有率から見るといずれも目標を達成していることになり、同社は事業目標を上回るスピードでビジネスを進めている。
2008年にはFiOS TVで100万加入を達成すると予想されており、CATV業界の加入者ランキングに当てはめると第10位に位置している。もし、2010年の400万加入を達成すれば、CATV業界5位まで駆け上ることになる。
FiOSが狙う第2世代トリプル・プレー
米国では、中小CATV業者、地方の通信事業者もトリプル・プレーを展開しているため、「放送・通信・データ」の抱き合わせ販売による差別化は難しい。特に、Verizon、AT&Tが新規にトリプル・プレーで参入しているエリアでは、CATV事業者との競争が活発化しているが、投資が嵩んでいるため、値引き競争には入れない。そこで、携帯電話を加えて、Quadruple Playに持ち込み、さらに、操作面での統合化を図って、より質の高いサービスを目指す競争展開が始まっている。
Verizonの新しいサービスは、以下のようなものになる予定;
1. IM/プレゼンス機能の強化:
ユーザがどこにいるかをプレゼンス・サーバで認識し、適切なルーティング処理を行なう。例えば、携帯電話に写真が送られてきたとき、ユーザが携帯圏内にいなければ、ユーザの使用しているパソコンに自動転送し、メッセージの内容は、IMのようにポップアップする。
2. ゲームのモバイル化:
Verizonは、CATVやIPTVをベースにしたゲームが2010年までにゲーム市場の20%を占めると予測し、パソコンや携帯電話でSTBにある好きなタイトルをプレーしたり、異なるデバイス間のネット対戦も出来るようにする予定。
3. 双方向広告の投入:
料理番組を見ているときに、リモコンのボタンでレシピを表示させたり、シェフの料理本をamazon.comで購入できるなどのサービスを提供。決済は、クレジットだけでなく、FiOSの請求書に加えることも可能とする。
4. ホームオートメーション:
FiOSでは、WiFi対応機器の監視を行い、WiFi付きデジカメでとった写真を指定の家庭内端末(TV/携帯/パソコン)に転送したり、携帯電話で室内用のwebカメラの映しているものを見る/室内温度調整/照明の点滅などを行なうことが可能となる。
このような高度のサービスをFiOSで提供できるようになるのは、IMS(IP Multimedia Subsystem)と呼ばれるNGNの標準サービスI/Fを導入するからである。プレゼンス管理も、IMS機能の一部であり、FiOSサービスをCATVとの差別化を図る有力な武器となっている。
このようなFiOSのサービスが本当にユーザの望むものであるか否かは判っていない。Verizonは、実際にはどのようなサービスを提供するかは未定としており、実際には、広告と連動したサービスが先行するのではないかと予想される。日本でもNTTのNGNの導入が進んでいるが、あくまでもインフラの更新が最大の眼目であり、サービス機能の拡充は、規制により、また、NTT自身の意向により限られたものとなっている。
CATV業界の現実的な次世代サービス
一方、CATV業界はより実践的な次世代トリプルプレーを模索している。先ずは、VoD(Video on Demand)の次にくるサービスとして、STBを使って、YouTube/Hulu/CinemaNowなどのインターネット系ビデオを楽しむサービスである。
STBの能力が高まっているので、このようなサービスを提供することは可能であろうが、インターネット向けの低画質な画面を大型TVの高画質にどのように対応させるか、キーボード/マウスを必要とする操作性をどのように改善するか、Windows Media Player/FlashなどのプラグインをSTBにどのようにセットさせるか、STBを直接ネットにつなぐことで、ハッキングなどのセキュリティ面をどのように確保するかなどの各種の課題の解決が必要になる。
そこでネット・ビデオの事業者と提携し、CATVネットワーク・センターのビデオ・オン・デマンド・システムに映像を蓄積する方法が模索されている。この場合、ビデオ・オン・デマンドの操作画面をそのまま利用できるので、普通の番組とネット番組を違和感なしにリモコンで操作できる。また、新しいフォーマットが出てきてもネットワーク側のサーバで処理するので、STBでの処理が不要になる。CATV事業者にとって、サービス手数料を課金できるメリットもある。このネット・ビデオとのシームレス化は、CATV事業者のトリプル・プレー強化策として期待されている。
次世代(トリプルプレー)はデバイスと番組・サービスを自由自在に組み合わせる
CATV業界も中長期的視野に立てば、FiOSと同じようなネットワーク・ベーズド・サービスを狙っている。例えば、”番組を中断せずにデバイスを移行する”と言ったサービスがある。STB大手SA(Scientific Atlanta)の考えている同サービスは以下のような操作になる;
1. ビデオ・オン・デマンドの映画を見ている途中で、ポーズボタンを押す
2. ネットワーク側のビデオ送出データベースで、タイムスタンプを記録
3. パソコン端末を使ってユーザがビデオ再送出の指示をだす
4. ネットワークは、端末とユーザの認証をおこなう
5. 送出先ネットワークをケーブル網からインターネットに切り替える
6. ユーザはパソコンで中断した場面からビデオを見始める
このサービスは現在のところ、同じホーム・ネットワーク内だけでデバイスを切り替える。これはホーム・ネットワークをひとつのドメインとして電子著作権管理などを行うためだ。しかし、将来的には複数のドメインを横断して番組やサービスを操作することができるようになるとSA側は考えている。
次世代トリプル・プレーは2009年から。来年はネット高速化競争か?
このように米国では着々と放送・通信融合サービスへの準備が進んでいる。
早ければ2008年後半から2009年春には、ネット・ビデオとのシームレス化、IMSを使ったメール配信の最適化といったサービスがお目見えすることになる。
なお、2008年一杯は現状のトリプル・プレー戦争が続くが、インターネットの高速化競争が台風の目になると予想されている。即ち、CATV業界のHFC(光同軸混合)ネットワークは750MHzの帯域しかなく、多チャンネル化、デジタル放送、HD番組の増加にともなって、容量不足に悩んできた。そのため、ケーブル・モデムを高速化したくても、帯域不足で実現できない状況にある。しかし、コムキャストやタイム・ワーナー・ケーブルなど大手CATV事業者はSDV(Switched Digital Video)という新システムで帯域不足を解決しようとしている。
これは、HFC網に流れるブロードキャスト番組を減らし、IPTVのようにオン・デマンドのライブ放送を増やすことで、帯域を節約する。実際、コムキャストは、SDVの導入で、240MHz分の帯域(アナログTV40ch分)を再利用できると考えている。コロラド州デンバーおよびニュージャージー州チェリー・ヒルでSDVの実験を行っている同社は、節約できた帯域をHDやビデオ・オン・デマンドの充実にあてるほか、“DOCSIS3.0”という次世代IPサービス規格を使ってケーブル・モデムの高速化にも利用する予定だ。同技術を使えば下りで140Mbpsを超えるネット接続が可能で、2008年春から商用サービスを開始する予定。
一方、こうした動きに対抗し、ベライゾン・コミュニケーションズはコネチカット、フロリダ、マサチューセッツ、ニュージャージー、ニューヨークおよびロードアイランドの一部でFiOS Data 50Mbpsサービスを2007年秋から投入した。また従業員宅を対象に100Mbpsの実験も続けている。こうした状況から、2008年後半には米国でも100Mbpsを超えるブロードバンド・サービスがトリプル・プレーに組み込まれるだろう。
欧州や日本に比して、米国ではNGNという言葉は一般的ではない。しかし、NGNに欠かせないIMS規格の導入やアクセス網のオールIP化などは積極的に進めており、NGNというキャッチフレーズはなくとも、放送と通信の融合サービスを実現するネットワークづくりは着実に進んでいる。その具体的な現れが、次世代トリプル・プレーといえるだろう。
既に述べてきたように、日本では放送関連業界で賛否両論があり、規制緩和が進んでいない。大手通信事業者が光ファイバーや次世代無線モバイル網の整備に莫大な投資を続け、技術的な環境は十分になろうとしているにもかかわらず、一般市民はその恩恵に浴していない。「NGNブームはあっても次世代トリプル・プレーには到達できない」状況に、日本はいつまで甘んじなければならないのだろうか。
[コメント]
日本の通信業界の規制緩和は、非常にうまく推進され、世界にも冠たるブロードバンドインフラが構築され、インターネット社会が大いに発展する素地が作られてきた。この果実をコンシューマに届けるべき最も有力なコンテンツを提供する放送業界は、頑なに規制緩和の導入に反対し、殻に閉じこもって、業界主導のネットワーク社会への対応を、家電メーカーなどと組んで実行しようとしているように見受ける。
一方、通信業界は、NGNの掛け声の下に、既設のブロードバンドインフラの一段の改善に取り組んでいるものの、肝心のコンテンツの拡大、質の改善、使い勝手の向上などを誘発すべきネットワークの使い勝手向上のためのIMS導入には積極的でない。既得権者の利益を優先して、ユーザの視点を忘れた日本の今の状況は、世界の動きから遊離した無駄な投資の連鎖になりかねないだけに、業界横断的で、ユーザも入れたあるべき姿を追求する場の設定が望まれる。かつての通信業界刷新の規制緩和が、ここまで成功したのであるから、この期待は実現性のあるものでると思われる。産学官に加えて、今こそ政治の出番ではないであろうか。
このままでは、「NTTはNGN投資回収のシナリオが作れなく、赤字に転落し、ブロードバンドが最も安いという名誉も返還して、日本の没落にさらに拍車をかける」と言う悪夢のようなシナリオに進む可能性があり、これだけは避けて欲しい。







