第26回 iPhoneのその後(6)その2 [2008年02月14日(木)]
アップルは、”Macでパソコン業界を変え、iPodとiTunes Storeで音楽業界を変え、最近では米国のテレビ業界も変えつつある”ように、各業界に本質的な変化をもたらしてきた。アップルがこうしたイノベーションを起こした背景には、「会社の夢」であるビジョンや、製品をグランドデザインする力があった。
以下では、アップルの影響力とその背景を紹介する;
音楽業界を塗り替えたアップル
iPhoneでケータイ業界を変える3年前、アップルはオンライン音楽販売サービスの「iTunes Music Store」(現iTunes Store)を立ち上げて、音楽業界を一変させた。
音楽をそれまでのようにCDというパッケージで買うのではなく、1曲単位で自由に買えるようにした。
しかも、音楽の販売事業は、あくまで音楽プレーヤ「iPod」の販促の一環とみなし、音楽の販売そのもので儲けようとしない斬新な発想で、米国では他のどの会社よりも安い1曲99セントで販売し、果敢にもファイル交換ソフトで不法流通している音楽に対抗しようと試みた。この結果、少なくとも米国では音楽市場を大きく変えた。
iTunes Storeで週替わりで配付している無料の曲がきっかけで、大ブレイクしたアーティストも少なくない。ウォールストリートジャーナル紙は2007年3月9日付けの「Music's New Gatekeeper」(音楽の新しい門番)と題した記事で、アップルの音楽業界における影響力の大きさを紹介し、「アップルは音楽ビジネスにおいても稀な成功物語だ」と書いている。
他社からアップルだけが成功していることを批判されると、英EMIとともにDRM(デジタル著作権管理)を取り外した非独占的音楽ファイルの販売を始め、iPod以外の音楽プレーヤでも音楽を再生できるようにした。ただし最近では、米マイクロソフトの「Windows Media」や他社の音楽サービスに対応しないといったやり方が独占禁止法違反に相当すると訴えられた。
アップルの音楽業界での影響力は、もはや経済的だけでなく、音楽産業の生態系にまで大きな影響を及ぼしている。米国では、オンライン配信で音楽に触れる人が増えたことで、コンサートの収益が上がったと言われている。エコノミスト誌の2007年6月5日号では、業界誌「ポールスター」を引用して、2000年には17億ドルだった米国での音楽コンサートの売り上げが、2006年には31億ドルに達し、ミュージシャンの収入源の3分の2にまで増えていると紹介している。
一方、日本の音楽業界はこの流れに必死で抵抗して、それまでのビジネスを守ろうとしている。iTunes Storeの曲の販売価格も、日本だけ異例の150円/200円の2プライス制だ。その代わり、日本の音楽業界はここ数年、米国の音楽業界ほど再興できていないと指摘する声が多い。
テレビ番組の販売で放送業界にも影響
iTunes Storeを通して、アップルは米国のテレビ業界や映画業界をも大きく変えようとしている。米国では、人気テレビ番組が放送から24時間後にはiTunes Storeで買えるようになってきた。価格は一律1.99ドルだ。
アップルがこのサービスを始めると、即座に2つの現象が起こった。1つは、人気のiTunes Storeでテレビ局が自社の人気番組を売ろうとする動き。もう1つは、それと並行して、米国の多くのテレビ局が自社のWebサイトなどでもiTunes Storeと同じ条件で番組を販売しようとする動きだ。
これらのサービスを使えば、飲み物1杯2杯分ほどのお金で、見逃した連続ドラマを見られる。ユーザーは気軽に番組を見られるし、テレビ局は新たな収入を得られる。もっとも、テレビ局の中には、拡大するアップルの影響力に懸念を示すところも出てきた。米国三大ネットワークの一つであるNBCは、自ら番組の価格設定ができないことに腹を立て、iTunes Storeでの番組の販売をやめてしまった。
iMacでパソコンを薄利多売の世界から脱却させる
他社が次々と諦めていたパソコンの直販ビジネスに、アップルは、「アップルストア」で切り込んで大成功させ、薄利多売の投げ売り合戦と化していた低価格デスクトップ・パソコンの市場に「iMac」で変化を巻き起こした。アップルストアは、2007年9月までの2007年度業績によると、200強の店舗に年間1億人が訪問し、42億ドルの売り上げをもたらしている。
iMacが安価なデスクトップ製品に一石を投じたのは、1998年。当時、パソコン・メーカーは安価な汎用部品と汎用の筐体を使って、他社より少しでも安い製品を作ることに躍起になっていた。そんな中、アップルは細かな部品の調整や流通の見直しでコストを削った。さらに最新プロセッサを搭載し、それまでになかった斬新な工業デザインのiMacを発表して一世を風靡した。半透明のポリカーボネート筐体にボンダイブルーと呼ばれる深い碧い筐体(その後、5色のバリエーションを販売)を特徴とするiMacはちょっとした社会現象を巻き起こした。
業界に革命を起こす構想力
アップルが、世の中にこれだけ何度も、大きな社会的影響を与えることができた秘密のカギを握るのは、同社のデジタル社会のグランドデザインを構想する力に隠されているのではないかと思う。
これから先、デジタルテクノロジーが生活にどのような変化を与え、そこからどんなライフスタイルが生まれてくるのかを構想する。例えば、iPhoneに至るまでのグランドデザインは、2001年にアップルが打ち出した「デジタルハブ」構想にあった。デジタルハブとは、パソコンがさまざまな電子機器の中枢になるというビジョンだ。
アップルは常に5年から10年先のビジョンを持って行動していると言われている。このビジョンがあるからこそ、アップルは目先の競争に惑わされず、ユーザーに支持される製品を生み出せる。だから、さまざまな業界に大きな変化をもたせるのだろう。
[コメント]
日本のパソコン、携帯電話、Walkmanに代表される音楽プレーヤ、各種のVoD(Video on demand)サービス用STBなど、個別の機器としては、アップルの提供する機器よりははるかに優れた製品が出回っているように見受けられるが、ユーザの視点で見た場合には、その相互の接続性、データ交換性、操作性などのinteroperabilityの面では、数多くの課題を抱えており、ビジネスとしても十分成功しているとは言いがたい状況にある。
アップルと同様な一貫性と優れた操作性を最初から導入する製品群を提供するには、Steve Jobsという天才的カリスマリーダのいない集団では、衆知を集めてdefacto standardの企画を洗練したものにして、これを採用し、標準化による大量生産/販売を武器に、ユーザに取って適切な価格での販売を可能とする一貫性のある使い勝手のよい製品を提供することが望まれるが、その意味で、iPhone対Androidの競争は、望ましい成果を生み出す良い機会になるのではと期待される。







