第31回 [米国通信市場動向](その2) [2008年04月10日(木)]
[米国通信市場動向](その1)はこちらから
5.米国MVNOはコンテンツでの差異化が失敗、ニッチ市場向けは健闘(2008年3月12日)
日経コミュニケーション 渡辺 祥:情報通信総合研究所 研究員
米国のMVNO(仮想移動体通信事業者)にとって、2007年は受難の年だった。米ディズニーが立ち上げた「ディズニー・モバイル」、世界最大級のスポーツ専門テレビ局が手掛けた「ESPNモバイル」といった大型のMVNOが次々と経営破たんしたからだ。これらのMVNOはデータ通信で独自の機能・サービスを展開し、高いARPU(ユーザー当たりの平均利用額)を狙った「付加価値型」と呼ばれて市場の高い関心を集めていた。これら、コンテンツで差異化するMVNOは死屍累々といった状況にある。
しかし、移民や在米外国人といった特定コミュニティを対象にしたMVNOは健闘。さらに数万人規模の小さなコミュニティをターゲットにしたニッチ型MVNOも登場し、携帯電話市場に話題を提供している。また、米アップルの「iPhone」の成功が新たなMVNOの未来を示唆。
2008年以降には、MVNOの新たなビジネス・モデルが登場するかもしれない。
・10歳前後の子供をターゲットにしたMVNOが成功
実は、米国のMVNO市場では、依然として新規企業の参入や事業拡大などの動きが続いている。一つの成功例として、2007年2月にサービスを開始したKajeet(カジート)が挙げられる。ターゲット層を絞り込み、流通戦略・端末戦略を周到に準備することで市場を伸ばしているのだ。Kajeetは、メインユーザーを「Tween」(10歳前後の子供たち)と設定。その上で、子供じみた端末ではなく、「大人の携帯と同等のハイスペック」な魅力ある端末ラインアップ6種類をそろえた。モバイルの高度な技術を使えるようにしつつ、子供向けのコンテンツを用意。子供的/大人的な両面性を持たせることで、子供達の「背伸びをしたい」という要求に配慮した戦略だ。購入の決定権を持つ親への訴求も忘れない。子供が持つ携帯電話の利用時間帯や上限料金、通話相手先を制限できる「Kajeet Configurator」といったツールを提供している。販売網には全米3000以上の量販店を確保し、さらに子供の来場が期待できる玩具流通のトイザらスなどもしっかりと押さえた。サービスそのものの魅力を高める一方、撤退したディズニー・モバイルからの乗り換えキャンペーンを行うなど、抜け目のない一面も見せる。
こうした着実な経営展開を好感してか、Kajeetは2006年から2008年当初にかけてベンチャー・キャピタル(VC)から3度の出資を受けた。その結果、MVNOに逆風が吹く中、合計で約7400万米ドル(約79億円)の資金を得た。
・移民・在米外国人などの特定コミュニティ向けも健闘
もう一つ、特徴として見られる動きが、特定コミュニティに向けたMVNOである。例えば、移民や在米外国人を対象にしたMVNOは以前から成功しており、ここ最近はさらに拡大する方向にある。特に、増加を続けるヒスパニック系移民者をサポートするMVNOが好調だ。この市場にフォーカスしたTracfone(トラックフォン)は、2007年末で951万のユーザーを抱える米国最大手のMVNOとなっている。ヒスパニック色がさらに強いMovida Communications(モビーダ・コミュニケーションズ)も、2005年開業ながら2007年夏に加入者数が25万を突破。同時期にVCから4000万米ドル(約43億円)の追加出資を受けている。
苦戦が続く付加価値型MVNOのヘリオは、ユーザー数が伸びずに2007年第3四半期の決算で大幅な赤字を計上。共同パートナーである韓国の携帯電話事業者SKテレコムに大規模な追加出資を仰ぐ事態となった。しかし、韓国系米国人をターゲットにした事業を並行して展開。訪米する日本人や在米日系人を対象にするMVNOもあり、2007年4月にKDDIがスタートした。
・さらに小規模なコミュニティに向けたサービスも
新たな動きとして、今までよりも小規模なコミュニティや集団をターゲットにMVNOを始める事例が登場している。こうした事業を展開する注目企業の一つが米Sonopia(ソノーピア)だ。同社は、「Do-It-Yourself(DIY)」のMVNOという概念を掲げる。これは、もともと欧州で普及した「ニッチ型MVNO」と呼ばれるビジネス・モデルで、欧州の成功事例を米国に持ち込んだ格好だ。
具体的には、ユーザー数が5万人に満たないような小さなグループでも、そのユーザー内で閉じたMVNOサービスを立ち上げられる。MVNOの立ち上げ作業は、SonopiaのWebサイトを通じて行う。「わずか15分で新しい携帯サービスを作れる」のが売りだ。MVNOに必要な設備や端末、ビリング(課金)、カスタマー・サポートなどは、Sonopiaが提供する。サービスを利用するグループは、プロサッカーチームの会員組織や、全米野生生物連盟など特定利害や興味、関心で結び付く集団が多い。こうしたグループが、設備コストを負担せずにメンバー向けの携帯電話サービスを簡単に立ち上げられる。目的は、グループ内の結び付きを高めることなどだ。
一方、設備を提供するSonopia側は、グループごとのユーザー数は少ないものの、マーケティング費用を使わずにユーザーを獲得できるメリットがある。複数のグループをユーザーに抱えることで、スケールメリットを使った事業展開が可能となってきた。今後のトレンドとして、パーソナライズされた「マイ携帯」を、MVNOを通じて利用する時代が来るのかもしれない。
・「iPhone」は一種のMVNO、付加価値型にも復活の目?
ニッチ市場に特化したMVNOは好調だが、大手携帯電話事業者との競争を作り出すまでは至っていない。実は、「iPhone」を提供する携帯電話事業者であるAT&Tとアップルの関係を見ると、MVNOの事業形態に限りなく近い形で運営されているのが分かる。
「iPhone」は、端末開発、マーケティング、販売、カスタマー・サポートなどのほとんどをアップル独自で提供している。AT&Tは、実質的にはネットワークを貸し出すだけである。つまり、「iPhone」にかかわるほとんどの権限をアップルが握っているのが現状だ。AT&Tの2007年第4四半期の業績発表によると、「iPhone」のユーザー数は累計約200万に達したという。これら「iPhone」のユーザーに対し、アップルはAT&Tのメニューにはない独自のサービスを提供できる。つまり、アップルが提供する実質的なMVNOサービスともいえ、大手の携帯電話事業者に対抗する選択肢となりつつあることが分かる。
アップルは、魅力あるブランドやハードウェア、ソフトウェアの構成力、さらには高いマーケティング力を持つ。こうした企業であれば、携帯電話事業者からネットワークを借りるだけで、新たな市場開拓を成功に導けることを証明している。
もちろん、アップルは携帯電話事業者から通信料のレベニュー・シェアを勝ち取ったとされるなど、その端末支配力やブランド力の強さが並みのMVNOの比でないことは考慮すべきだ。しかし、アップルが成功したことで、同様の手法を採用しようとする企業が登場してもおかしくない状況になってきた。
今後、携帯電話事業者とは別の企業が、MVNOやそれに近い形態で携帯電話市場を開拓する動きがありそうだ。
以上
[コメント]
米国の携帯電話市場が、オープンネットワークでキャリア以外の育てる独自端末を相手に、MVNOとして、特定のユーザ群を抱え込むサービス形態にシフトしていく状況を考えると、
携帯電話市場をリードしてきた欧州/日本とは異なる新たなウネリが迫ってきている予感が感じられる。奇しくも、日米の市場でLTE・WiMAXによって共通のモバイルインタフェースが主体的になる方向にあり、これにVodafonが加わることで、周波数帯は異なるものの、エアーインタフェースがLTEとWiMAXに収斂する次世代携帯電話の世界が見え、さらには、CDMA系とGSM系で異なっていたバックボーン形も、LTEでGSM系に収斂するのではと予想される今、真にユビキタス環境でIMSによるコンテント系の共有される可能性が見えてきたのではないであろうか。端末も、NotePCに代わる「iPhone/iPod/Android」系のPDAが主力になってくるであろうことから、グローバルに全てがPC/Macのように共通化される時代が来ることも予感される。
5.米国MVNOはコンテンツでの差異化が失敗、ニッチ市場向けは健闘(2008年3月12日)
日経コミュニケーション 渡辺 祥:情報通信総合研究所 研究員
米国のMVNO(仮想移動体通信事業者)にとって、2007年は受難の年だった。米ディズニーが立ち上げた「ディズニー・モバイル」、世界最大級のスポーツ専門テレビ局が手掛けた「ESPNモバイル」といった大型のMVNOが次々と経営破たんしたからだ。これらのMVNOはデータ通信で独自の機能・サービスを展開し、高いARPU(ユーザー当たりの平均利用額)を狙った「付加価値型」と呼ばれて市場の高い関心を集めていた。これら、コンテンツで差異化するMVNOは死屍累々といった状況にある。
しかし、移民や在米外国人といった特定コミュニティを対象にしたMVNOは健闘。さらに数万人規模の小さなコミュニティをターゲットにしたニッチ型MVNOも登場し、携帯電話市場に話題を提供している。また、米アップルの「iPhone」の成功が新たなMVNOの未来を示唆。
2008年以降には、MVNOの新たなビジネス・モデルが登場するかもしれない。
・10歳前後の子供をターゲットにしたMVNOが成功
実は、米国のMVNO市場では、依然として新規企業の参入や事業拡大などの動きが続いている。一つの成功例として、2007年2月にサービスを開始したKajeet(カジート)が挙げられる。ターゲット層を絞り込み、流通戦略・端末戦略を周到に準備することで市場を伸ばしているのだ。Kajeetは、メインユーザーを「Tween」(10歳前後の子供たち)と設定。その上で、子供じみた端末ではなく、「大人の携帯と同等のハイスペック」な魅力ある端末ラインアップ6種類をそろえた。モバイルの高度な技術を使えるようにしつつ、子供向けのコンテンツを用意。子供的/大人的な両面性を持たせることで、子供達の「背伸びをしたい」という要求に配慮した戦略だ。購入の決定権を持つ親への訴求も忘れない。子供が持つ携帯電話の利用時間帯や上限料金、通話相手先を制限できる「Kajeet Configurator」といったツールを提供している。販売網には全米3000以上の量販店を確保し、さらに子供の来場が期待できる玩具流通のトイザらスなどもしっかりと押さえた。サービスそのものの魅力を高める一方、撤退したディズニー・モバイルからの乗り換えキャンペーンを行うなど、抜け目のない一面も見せる。
こうした着実な経営展開を好感してか、Kajeetは2006年から2008年当初にかけてベンチャー・キャピタル(VC)から3度の出資を受けた。その結果、MVNOに逆風が吹く中、合計で約7400万米ドル(約79億円)の資金を得た。
・移民・在米外国人などの特定コミュニティ向けも健闘
もう一つ、特徴として見られる動きが、特定コミュニティに向けたMVNOである。例えば、移民や在米外国人を対象にしたMVNOは以前から成功しており、ここ最近はさらに拡大する方向にある。特に、増加を続けるヒスパニック系移民者をサポートするMVNOが好調だ。この市場にフォーカスしたTracfone(トラックフォン)は、2007年末で951万のユーザーを抱える米国最大手のMVNOとなっている。ヒスパニック色がさらに強いMovida Communications(モビーダ・コミュニケーションズ)も、2005年開業ながら2007年夏に加入者数が25万を突破。同時期にVCから4000万米ドル(約43億円)の追加出資を受けている。
苦戦が続く付加価値型MVNOのヘリオは、ユーザー数が伸びずに2007年第3四半期の決算で大幅な赤字を計上。共同パートナーである韓国の携帯電話事業者SKテレコムに大規模な追加出資を仰ぐ事態となった。しかし、韓国系米国人をターゲットにした事業を並行して展開。訪米する日本人や在米日系人を対象にするMVNOもあり、2007年4月にKDDIがスタートした。
・さらに小規模なコミュニティに向けたサービスも
新たな動きとして、今までよりも小規模なコミュニティや集団をターゲットにMVNOを始める事例が登場している。こうした事業を展開する注目企業の一つが米Sonopia(ソノーピア)だ。同社は、「Do-It-Yourself(DIY)」のMVNOという概念を掲げる。これは、もともと欧州で普及した「ニッチ型MVNO」と呼ばれるビジネス・モデルで、欧州の成功事例を米国に持ち込んだ格好だ。
具体的には、ユーザー数が5万人に満たないような小さなグループでも、そのユーザー内で閉じたMVNOサービスを立ち上げられる。MVNOの立ち上げ作業は、SonopiaのWebサイトを通じて行う。「わずか15分で新しい携帯サービスを作れる」のが売りだ。MVNOに必要な設備や端末、ビリング(課金)、カスタマー・サポートなどは、Sonopiaが提供する。サービスを利用するグループは、プロサッカーチームの会員組織や、全米野生生物連盟など特定利害や興味、関心で結び付く集団が多い。こうしたグループが、設備コストを負担せずにメンバー向けの携帯電話サービスを簡単に立ち上げられる。目的は、グループ内の結び付きを高めることなどだ。
一方、設備を提供するSonopia側は、グループごとのユーザー数は少ないものの、マーケティング費用を使わずにユーザーを獲得できるメリットがある。複数のグループをユーザーに抱えることで、スケールメリットを使った事業展開が可能となってきた。今後のトレンドとして、パーソナライズされた「マイ携帯」を、MVNOを通じて利用する時代が来るのかもしれない。
・「iPhone」は一種のMVNO、付加価値型にも復活の目?
ニッチ市場に特化したMVNOは好調だが、大手携帯電話事業者との競争を作り出すまでは至っていない。実は、「iPhone」を提供する携帯電話事業者であるAT&Tとアップルの関係を見ると、MVNOの事業形態に限りなく近い形で運営されているのが分かる。
「iPhone」は、端末開発、マーケティング、販売、カスタマー・サポートなどのほとんどをアップル独自で提供している。AT&Tは、実質的にはネットワークを貸し出すだけである。つまり、「iPhone」にかかわるほとんどの権限をアップルが握っているのが現状だ。AT&Tの2007年第4四半期の業績発表によると、「iPhone」のユーザー数は累計約200万に達したという。これら「iPhone」のユーザーに対し、アップルはAT&Tのメニューにはない独自のサービスを提供できる。つまり、アップルが提供する実質的なMVNOサービスともいえ、大手の携帯電話事業者に対抗する選択肢となりつつあることが分かる。
アップルは、魅力あるブランドやハードウェア、ソフトウェアの構成力、さらには高いマーケティング力を持つ。こうした企業であれば、携帯電話事業者からネットワークを借りるだけで、新たな市場開拓を成功に導けることを証明している。
もちろん、アップルは携帯電話事業者から通信料のレベニュー・シェアを勝ち取ったとされるなど、その端末支配力やブランド力の強さが並みのMVNOの比でないことは考慮すべきだ。しかし、アップルが成功したことで、同様の手法を採用しようとする企業が登場してもおかしくない状況になってきた。
今後、携帯電話事業者とは別の企業が、MVNOやそれに近い形態で携帯電話市場を開拓する動きがありそうだ。
以上
[コメント]
米国の携帯電話市場が、オープンネットワークでキャリア以外の育てる独自端末を相手に、MVNOとして、特定のユーザ群を抱え込むサービス形態にシフトしていく状況を考えると、
携帯電話市場をリードしてきた欧州/日本とは異なる新たなウネリが迫ってきている予感が感じられる。奇しくも、日米の市場でLTE・WiMAXによって共通のモバイルインタフェースが主体的になる方向にあり、これにVodafonが加わることで、周波数帯は異なるものの、エアーインタフェースがLTEとWiMAXに収斂する次世代携帯電話の世界が見え、さらには、CDMA系とGSM系で異なっていたバックボーン形も、LTEでGSM系に収斂するのではと予想される今、真にユビキタス環境でIMSによるコンテント系の共有される可能性が見えてきたのではないであろうか。端末も、NotePCに代わる「iPhone/iPod/Android」系のPDAが主力になってくるであろうことから、グローバルに全てがPC/Macのように共通化される時代が来ることも予感される。







