第38回 Cloud Computing(その2) [2008年06月26日(木)]

第38回 Cloud Computing(その1)はこちらから。


Amazonに見るCloud Computingの可能性

Amazon Web Services社は、ネットワーク・サービスを提供するAmazonの子会社で、主にEC2とS3サービスを提供している。

Amazon S3(Simple Storage Service)は、ネットワーク・ベースのストレージ・サービスで、業界初のパブリック・ウェブ・サービスとして2006年3月にサービスを開始した。
また、2006年秋にはAmazon EC2(Elastic Compute Cloud)がベータサービスを始めている。

EC2の特徴を簡単にまとめると次のようになる
1.仮想化技術を使い、オンデマンド・ホスティングを実現

2.柔軟なコンピュータパワーの提供する
(数分で新サーバを追加・起動できる、コンピューティング・パワーの増減が自由にできる、ウェブ・サービス・インターフェースを使った自動化ツールを提供)

3.Linuxマシンにrootレベルでアクセスが可能
(仮想環境を感じさせない)

4.AMIs
AMIs(Amazon Machine Images)により基本設定やオプティマイゼーション機能を簡易 に提供

5.完全な従量課金サービス
(1時間あたり10セント/EC2 Unit)

6.最小ユニットは
1.7 GB of memory
1-EC2 Compute Unit
160 GB of instance storage
32-bit platform

同社は「システムのセットアップ費用が不要」で、個人から中小企業への普及をめざした料金設定となっている。サーバ1台から数千台規模まで、提供できるコンピューティング・パワーはスケーラビリティが高く、ユーザは、AMIインターフェースを使って簡単にウェブ・サービスアプリケーションを構築できるといわれている。

システム開発者が(ウェブ・アプリケーション)ソフトウェアの耐久試験をする場合、急に数十倍、数百倍のコンピューティング・パワーが必要となる。
EC2を使えば、テストに必要な期間だけ、必要なIT資源を利用し、使った量だけ費用をはらえばよい。あるデベロッパーは、MySpaceにアプリケーションを書いてサービスを提供した。最初は、ほとんどアクセスがなかったが、急に人気がでて数日でアクセスが急増した。EC2を使っていたので、数百倍、数千倍と急にアクセスが増えても対応する事ができた。従来なら、個人や数名の会社で、こうした急激なアクセス増加に対応することは無理だったろう。

このようにCloud Computingは、仮想化技術と広域アプリケーションを結びつける役割を果たそうとしている。

EC2に対応するOSやアプリケーション、開発ツールも徐々に増えている。たとえば、Sun MicrosystemsはオープンソースのMySQL(データベース)やOpenSolaris(サーバOS)をサポートし、SaaS開発環境では、Bangee社のBangeeConnectやEnomaly社のEnomalism.comが対応している。

もちろん、EC2の売り上げは、まだまだ少ない。正確な数字は発表されていないが、Amazon社2008年第1四半期決算における北米の雑収入が約9500万ドルなので、6000〜7000万ドル程度がCloud Computing関連の収入と推測できる。
しかし、専門家は、ここ数年でCloud Computingをてこに、様々なSaaSプロバイダーが生まれるだろうと予想しており、EC2の売り上げも伸びると推測できる。

調査会社のGartner社は
「2010年ぐらいまでは、短期間に巨大なデータ処理を行ったり、全くITインフラを持たない零細企業がCloud Computing・ユーザの8割を占める」
が、
「2012年にはフォーチュン・トップ1000社のうち8割が、Cloud Computing・サービスを利用する」
と予想している。

GoogleのCloud Computing戦略
2008年4月にGoogleが発表したApp Engine(ベータ)は、現在、500Mbyte、月間500万PVという制限をおいているが、基本的にはAmazon EC2と同様のサービスを無料で提供している。ユーザーは、希望するウェブ・アプリケーションを、App Engineにアップロードすれば、すぐに利用できる。

ただ、Amazon EC2に比べると、Google App Engineの戦略的位置は格段に重い。
同社は、これまでGmailやGoogle-Docs、Google Calendarなど様々な汎用アプリケーションをウェブ・ベースで提供してきた。このGoogle Apps(G-Apps)は、個人や中小企業を中心に広がっており、利用企業は50万社(全世界)を超えるといわれている。

既に、G-Appsを自社基幹アプリケーションに統合する動きが広がっており、Google社も、中堅から大企業向けに、G-Appsの有料販売に力を入れ始めた。G-Appsは企業市場の98%を押さえるといわれるMicrosoft Office市場を、いよいよ浸食しようとしている。

ただ、そのアプローチは、Microsoft Officeのようなパッケージ・ベースではなく、ウェブ・アプリケーションを軸とする。つまり、データセンタやアプリケーション・ベンダーに煩わされることなく、すべてのサービスをネットワークを通じてGoogleが提供する。

やや極端な表現をすれば、エリック・シュミットCEOが提唱するCloud ComputingのCloudとは、まさにGoogle自身にほかならない。そのためのプラットフォームがGoogle App Engineであり、ユーザがG-Appsを自社アプリケーションと統合するための基盤となる。Googleの狙いは、データセンタの構築やIT運用に苦労する企業に、
Googleがすべてのサービス/アプリケーションを提供する」
ことにある。

そう考えれば、海底ケーブル建設に参加したり、全世界でダーク・ファイバーを、買い漁って、大手電話会社並のコア・ネットワークを構築している同社の動きとぴったりツジツマがあってくる。また、GoogleのCloud Computing構想は、コンピュータ端末だけを対象としていない。
実際、Google関係者にインタビューすると、Android OSをベースに携帯電話などの各種モバイル端末と、
「将来的にはG-AppsやApp Engineが結びつくのは自然だ」
と述べている。

GoogleのCloud Computing構想は実に野心的で、かつてMicrosoft社が
「すべてのIT産業をWindowsOSで網羅しよう」
としたWindows戦略と肩をならべるほどスケールが大きい。

Cloud Computing開発に力をいれるMicrosoft
Microsoft社は、Google社のCloud Computing構想に危機感を募らせている。同社の難しさは、Microsoft OfficeやWindows Mobile(携帯OS)などが同社の重要な収入源となっており、安易にウェブ・アプリケーションへと舵を切れないところにある。とはいえ、着々と進むGoogleの浸食に対抗し、同社もCloud Computing分野で開発を加速させている。

例えば、4月22日、Microsoftはサンフランシスコで開催されたWeb2.0ExpoでLive Meshを発表した。これは、登録したパソコン間で写真やビデオ、ドキュメントなどを自動的に同期させるアプリケーションだが、単純なファイル共有とは違い、Cloud Computing的な2つのアプローチが潜んでいる。

一つは、Mesh Operating Environment(MOE)という実行環境を使って、携帯電話やSTB(Set-Top-Box)などパソコン以外の端末とも同期できる点だ。もう一つは単純なデータだけでなく、アプリケーション・レベルでの同期も実現している。
MeshFX(REST-base API)に従ってアプリケーションを書けば、一カ所のアプリケーションを変更すると、他のアプリケーションも変更できる。例えば、写真共有のアプリケーションでは、追加した写真だけでなく、レイアウトや並べ替え方、各写真の説明など細かい機能面も同期する。

このようにLive Meshを使えばCloud(広域網)につながったコンピュータばかりでなく、モバイル・デバイスでも利用できるウェブ・アプリケーションを提供できる。

Google App EngineはSaaS系アプリケーションにフォーカスしているが、Live Meshはモバイル系アプリケーションに焦点を当てている。このほか、Microsoft社のCIS(Cloud Infrastructure Services)チームは、Google App Engineと競合する「Red Dog」(開発コード名)も準備している。
Cloud Computing分野でGoogleMicrosoftが競争を展開するのは間近と予想される。

まとめ
Amazon EC2やGoogle App Engineは当面、ITインフラが弱い中小企業をベースにするが、IBMhp(hewlett-packard)SAPなどは、大企業向けのCloud Computingを狙っている。

例えば、IBMは2007年11月、ブルー・クラウド(Blue Cloud)構想を発表し大きな注目を集めた。
これは、ブレード・サーバにXen、PowerVMを活用して高度なバーチャライゼーションを行うもので、既存の大手クライアント向けに「オンデマンド・サービスからクラウドへ」という提案を繰り広げようとしている。

これに対抗し、hpは2008年3月に「Data Center-as-a-Service」を発表し、同様にCloud Computing・サービスを開始している。同サービスは、基本的にhpのデータセンタ・ユーザを対象にしているが、SAP6.0などの大型基幹アプリケーションをサポートしている点がAmazonなどと大きく違う。

日本では、salesforce.com社のサービスが、ようやく広がり始めたばかりだが、米国では次世代サービスを狙ってCloud Computingの商業化に力をいれている。
2009年の米国は、クラウド。ベンチャーやSaaSプロバイダが業界のブームになるだろう。その中で、どこまでGoogleが勢力をのばせるか、またMicrosoftはクラウド企業に変身し、Googleを阻止できるか。これから1〜2年の間、クラウドは注目のキーワードに違いない。

以上

[コメント]
Cloud Computingについての米国の動向をまとめた小池良次氏の記事の概略を紹介してきたが、このような動向を具体的に裏付けるiDC(internet Data Center)の開設ラッシュの状況を合わせ御覧いただくのも重要であろう;
Google
アイオワ州に約73万u(東京ドーム15個分)の土地を求め、iDCの建設を行っている。世界中には36箇所のiDCで各種のサービス提供を行っているとのことであるので、Googleのサーバは、既に100万台を越えている可能性もある。

ORACLE
テキサス州に2万5千uのiDCを構え、2万台越えのサーバを収容してオンラインサービスを実施中。

Microsoft
20箇所以上のiDCを構え、30万台以上のサーバで各種のサービスを行っている。
hp
米国内の3地域6カ所にデータセンターを新設し、85カ所ある既存施設を集約。全世界に分散しているサーバやストレージ、主要な業務アプリケーションを統廃合する。現在1万9000台あるサーバと4000種類のアプリケーションを、それぞれ6000台、1500種類にまで減らす計画(2008年中)

Cloud Computingが注目に値するのは、このような巨大なiDCで極めて廉価なサービスを提供するだけでなく、それを活用するユーザサイドの設置、運用などの手間を極めて少なくする仕組みをも内包したサービス提供である点である。
最終的には、これらのiDCをつないでmashupが行われることで、企業の基幹システムまでが、複数のiDCに分散されたCloud Computingで代替されるところまで進む可能性を秘めていることである。
このようなソフトウェアパワーまでもが内包された暁には、世界中のデータセンタサービスが、これら巨大なICTサービス企業に集約されてくる可能性も否定できない。

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