日記2005/01/10斬光15嵐の後大過の前 [2005年01月10日(月)]
事務棟へ向かう生徒の足取りは大方において重い。
そこは校則を破った者への処分が言い渡される場であり
、生徒にとっては裁判所とも等しい場所だからだ。
彼もその場の重苦しい空気には慣れられずにいる。
「2年ゼッ・・・」
「シェバ・シュトラウゾくんね、もう憶えちゃったわよ」
受け付けの、おそらく特命教員であるお姉さんの顔は、
言われてみればたしかに見覚えがあった。
封印を破る度に顔を合わせているのだからそれも当然な
のだが、シェバの方は知り合いをつくって挨拶するような
心境でここに来たことはない。
封印の再施行のあとに提出しなければいけない中編小説
ほどもある反省文や、数日間にわたる審議でのタライ回し
のことを思うとため息をつく元気も出ないのだ。
来週には悪の秘密結社クラブに乗り込むという、入部以
来最大の部活動が待っているというのに。
焦るシェバの様子を知ってか知らずか、お姉さんは事務
的に告げた。
「説明は要らないわね、えと、申請は受理されてるから
奥で封印してもらったら帰っていいわよ」
「はぁ?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここユニオンデイルの土着の民である鬼や巨人、学園に
遺恨を残す追放者、さらには管理を離れた養殖生物などに
よる襲撃の絶えないイクセスは、常に臨戦体制にあるとい
っても過言ではない。
そんな過酷な状態ゆえに医療体制の拡充は至極自然のな
りゆきとして行われてきた。
イクセス学院保険室。
校舎の一角に集約された医療設備は6世界各本国におい
てもまれな規模であり、これに匹敵するのは和漢帝国の皇
帝専用医療院(存在の真偽は不明)くらいであるともウワ
サされる。
その前に仁王立ちする男、通称『ハウンド』に軽く挨拶
すると、彼は巨大なバンソウコウを張り付けたぶっちょう
面を多少緩めながら背後の扉を開いた。
「よぅ、顔色はよさそうじゃねぇか」
ベッド上に上体を起こすその人物は、入ってきたブラン
の老け顔をじっと眺めたままで彼が傍らに来るのを待って
いた。
「こうして来てやるのもアセルスにちょっかい出して以来
だなぁ。 どうした、後遺症で声がでねぇか?」
その言葉にようやく、患者は首を振りながら口を開く。
「その様子だと本体だな・・・なら友を見舞うときくらい
は身なりに気を使おうとは思わないのか?」
ブランを迎えたのは鼻筋のスッと通った細面と落ち着い
た物腰が印象的な男で、学院にいる者ならばよほどのひね
くれ者でない限りは一目見て彼の所属するクラスを言い当
てられるだろう。
その額や腕に巻き付けられた細い布やベルトは怪我を包
む包帯ではなく、彼の通り名の元にもなったトレードマー
クだ。
私物であるゆったりとしたガウンを素肌に纏った姿は完
全に耽美系少女マンガの登場人物で、周りに薔薇でも飾っ
てプロマイドを撮れば購買部で夢見がちな乙女やそっち系
の生徒に結構売れるのではないだろうか。
だが、乙女でもそっち系でもないブランの返事はぶっき
らぼうだった。
「なに言ってやがるんだ、この学院広しといえどシャツの
スソをちゃんとズボンに仕舞ってるのなんかオレサマくら
いなものだぜ、クニフダよぅ」
「違う、服装の事じゃない」
4年美組 國符札=閣羅、ユニオン流に言えばカクラ・
クニフダ。
昨日、謎の襲撃を受けたクニフダ組の頭領だ。
「式神でなく、本来の姿と言葉でいたわる気はないのかと
聞いているんだ」
言葉は苛立っているようでも、口調はあくまで親し気だ
ったが、ブランはそんなフレンドリーさも気にはしない。
「本来の姿? そう簡単に真形をさらすヤツばっかりにな
ったらイクセスも終わりだぜ」
「よくも言えるな……」
そこまで言ってクニフダはあきれて口を紡ぐ。
彼がブランの秘密を知っているのはたまたま黄金の瞳で
真実をかいま見たからだ。
常時、自らが操る式神『申(サル)』の姿で学院を徘徊す
るなぞの怪童。たしかに真形をさらしてはいないが、イク
スの力を絶え間なく使い続けているのだから同じ事のはず
だ。
それで封印を破らずにいるのは能力の発露にかなりの制
約を課しているからできる芸当であることは察しがつくが、
くわしく本人から解説された事はない。
そして、このまま食い下がっていてもここでそれが聞け
るとも思わない。
「今日は私をからかいに来たのか?」
「ん、そうだな、まずは何があったか聞いておこうか」
ようやくの本題にクニフダは口ごもりながら、ゆっくり
と話しはじめた。
「ムッチーが面白いヤツを見つけたと騒ぎながら、3人の
妙な連中を連れてきてな・・・」
ムッチーの後ろからおもむろに現れたの3人のうち、マ
スクをかぶった2人は呆気にとられるクニフダ組構成員の
間をすり抜けると、かつては教壇として使われていた台の
上へと駆け上がった。
二人は『タイガーおめん&ウルフさん』と名乗りをあげ
ると、ウルフさんの方が突然笛を吹きはじめた。
それはまったく新しい形の漫才だった・・・。
ひとしきり笑ったあと、二人と入れ替わりに壇上に登っ
た残りの一人はMr,メリマンと名乗り、今度は奇跡のイリ
ュージョンを披露すると高らかに宣言した。
「・・・テワ、このメガネをよく見ててくサイ」
おかしな発音が気にはなったのだが、言われるままにメ
ガネを凝視していると、ヤツは何気なくそのガラスのはま
っていない黒縁眼鏡をかけた。
何が起こるのかとワクワクしながらその眼を凝視してい
るうちにだんだんと気が遠くなり、バタバタと倒れる仲間
たちの様子でそれが邪眼だと気付いたのは本当に最後の瞬
間だった・・・
「おまえら、バカばっかりかよ」
ブラフはニヤニヤ笑いを引き釣らせながら率直な感想を
告げた。
少しは名の通った悪党の巣窟に、いきなり芸人トリオが
遊びにやってくるのはどう考えたって怪しすぎるだろう。
「だいたい31人もいて一人も邪眼に耐えられなかったの
かよ?」
呆れ果てて放ったその一言の直後、クニフダの顔に差す
暗いものがその濃度を増す。
「一人で耐えたミソラは、面会謝絶中だ」
妖精界出身の少女の名だ。
いつも学院法の分厚い教科書を抱えて、息を切らせなが
らフラフラと歩いていた。 腕力は……無かった。
さらに1対3
だから彼女は、集中治療用の別室に今も一人きりでいる。
「・・・君にイクスを渡してなければ、ドンキーやプライ
ムも耐えられたかもしれないがな」
ニヤケ顔がさきほどとは微妙に違うように引き釣る。
「全部オレサマの所為だって言いたいのか?」
「君が置いていったあのおかしなコインも持ち去られてい
た。我々が立つこの状況は君によって引きずり込まれたと
いう点に間違いはないのではないかね」
重い空気が流れる。
「なるほど、これを期に縁切りってわけか」 「・・・そんな気はない。私は武器庫にでも何にでもなる
つもりだ、そんな私についてきた者も文句を言う筋には無
い。だが、道具であってももっと有効に使ってはくれない
か? 君の目的を教えてくれれば・・・」
なおも言葉を続けようとするクニフダに「セリフ長すぎ
だ」と言い放つと、ブランはきびすを返して出口へと向か
う。
そして出口のハウンドに「死人が出る前に手を引いとけ」
と言ったきり、振り向きもせず廊下の向こうに姿を消して
しまった。
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そこは校則を破った者への処分が言い渡される場であり
、生徒にとっては裁判所とも等しい場所だからだ。
彼もその場の重苦しい空気には慣れられずにいる。
「2年ゼッ・・・」
「シェバ・シュトラウゾくんね、もう憶えちゃったわよ」
受け付けの、おそらく特命教員であるお姉さんの顔は、
言われてみればたしかに見覚えがあった。
封印を破る度に顔を合わせているのだからそれも当然な
のだが、シェバの方は知り合いをつくって挨拶するような
心境でここに来たことはない。
封印の再施行のあとに提出しなければいけない中編小説
ほどもある反省文や、数日間にわたる審議でのタライ回し
のことを思うとため息をつく元気も出ないのだ。
来週には悪の秘密結社クラブに乗り込むという、入部以
来最大の部活動が待っているというのに。
焦るシェバの様子を知ってか知らずか、お姉さんは事務
的に告げた。
「説明は要らないわね、えと、申請は受理されてるから
奥で封印してもらったら帰っていいわよ」
「はぁ?」
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ここユニオンデイルの土着の民である鬼や巨人、学園に
遺恨を残す追放者、さらには管理を離れた養殖生物などに
よる襲撃の絶えないイクセスは、常に臨戦体制にあるとい
っても過言ではない。
そんな過酷な状態ゆえに医療体制の拡充は至極自然のな
りゆきとして行われてきた。
イクセス学院保険室。
校舎の一角に集約された医療設備は6世界各本国におい
てもまれな規模であり、これに匹敵するのは和漢帝国の皇
帝専用医療院(存在の真偽は不明)くらいであるともウワ
サされる。
その前に仁王立ちする男、通称『ハウンド』に軽く挨拶
すると、彼は巨大なバンソウコウを張り付けたぶっちょう
面を多少緩めながら背後の扉を開いた。
「よぅ、顔色はよさそうじゃねぇか」
ベッド上に上体を起こすその人物は、入ってきたブラン
の老け顔をじっと眺めたままで彼が傍らに来るのを待って
いた。
「こうして来てやるのもアセルスにちょっかい出して以来
だなぁ。 どうした、後遺症で声がでねぇか?」
その言葉にようやく、患者は首を振りながら口を開く。
「その様子だと本体だな・・・なら友を見舞うときくらい
は身なりに気を使おうとは思わないのか?」
ブランを迎えたのは鼻筋のスッと通った細面と落ち着い
た物腰が印象的な男で、学院にいる者ならばよほどのひね
くれ者でない限りは一目見て彼の所属するクラスを言い当
てられるだろう。
その額や腕に巻き付けられた細い布やベルトは怪我を包
む包帯ではなく、彼の通り名の元にもなったトレードマー
クだ。
私物であるゆったりとしたガウンを素肌に纏った姿は完
全に耽美系少女マンガの登場人物で、周りに薔薇でも飾っ
てプロマイドを撮れば購買部で夢見がちな乙女やそっち系
の生徒に結構売れるのではないだろうか。
だが、乙女でもそっち系でもないブランの返事はぶっき
らぼうだった。
「なに言ってやがるんだ、この学院広しといえどシャツの
スソをちゃんとズボンに仕舞ってるのなんかオレサマくら
いなものだぜ、クニフダよぅ」
「違う、服装の事じゃない」
4年美組 國符札=閣羅、ユニオン流に言えばカクラ・
クニフダ。
昨日、謎の襲撃を受けたクニフダ組の頭領だ。
「式神でなく、本来の姿と言葉でいたわる気はないのかと
聞いているんだ」
言葉は苛立っているようでも、口調はあくまで親し気だ
ったが、ブランはそんなフレンドリーさも気にはしない。
「本来の姿? そう簡単に真形をさらすヤツばっかりにな
ったらイクセスも終わりだぜ」
「よくも言えるな……」
そこまで言ってクニフダはあきれて口を紡ぐ。
彼がブランの秘密を知っているのはたまたま黄金の瞳で
真実をかいま見たからだ。
常時、自らが操る式神『申(サル)』の姿で学院を徘徊す
るなぞの怪童。たしかに真形をさらしてはいないが、イク
スの力を絶え間なく使い続けているのだから同じ事のはず
だ。
それで封印を破らずにいるのは能力の発露にかなりの制
約を課しているからできる芸当であることは察しがつくが、
くわしく本人から解説された事はない。
そして、このまま食い下がっていてもここでそれが聞け
るとも思わない。
「今日は私をからかいに来たのか?」
「ん、そうだな、まずは何があったか聞いておこうか」
ようやくの本題にクニフダは口ごもりながら、ゆっくり
と話しはじめた。
「ムッチーが面白いヤツを見つけたと騒ぎながら、3人の
妙な連中を連れてきてな・・・」
ムッチーの後ろからおもむろに現れたの3人のうち、マ
スクをかぶった2人は呆気にとられるクニフダ組構成員の
間をすり抜けると、かつては教壇として使われていた台の
上へと駆け上がった。
二人は『タイガーおめん&ウルフさん』と名乗りをあげ
ると、ウルフさんの方が突然笛を吹きはじめた。
それはまったく新しい形の漫才だった・・・。
ひとしきり笑ったあと、二人と入れ替わりに壇上に登っ
た残りの一人はMr,メリマンと名乗り、今度は奇跡のイリ
ュージョンを披露すると高らかに宣言した。
「・・・テワ、このメガネをよく見ててくサイ」
おかしな発音が気にはなったのだが、言われるままにメ
ガネを凝視していると、ヤツは何気なくそのガラスのはま
っていない黒縁眼鏡をかけた。
何が起こるのかとワクワクしながらその眼を凝視してい
るうちにだんだんと気が遠くなり、バタバタと倒れる仲間
たちの様子でそれが邪眼だと気付いたのは本当に最後の瞬
間だった・・・
「おまえら、バカばっかりかよ」
ブラフはニヤニヤ笑いを引き釣らせながら率直な感想を
告げた。
少しは名の通った悪党の巣窟に、いきなり芸人トリオが
遊びにやってくるのはどう考えたって怪しすぎるだろう。
「だいたい31人もいて一人も邪眼に耐えられなかったの
かよ?」
呆れ果てて放ったその一言の直後、クニフダの顔に差す
暗いものがその濃度を増す。
「一人で耐えたミソラは、面会謝絶中だ」
妖精界出身の少女の名だ。
いつも学院法の分厚い教科書を抱えて、息を切らせなが
らフラフラと歩いていた。 腕力は……無かった。
さらに1対3
だから彼女は、集中治療用の別室に今も一人きりでいる。
「・・・君にイクスを渡してなければ、ドンキーやプライ
ムも耐えられたかもしれないがな」
ニヤケ顔がさきほどとは微妙に違うように引き釣る。
「全部オレサマの所為だって言いたいのか?」
「君が置いていったあのおかしなコインも持ち去られてい
た。我々が立つこの状況は君によって引きずり込まれたと
いう点に間違いはないのではないかね」
重い空気が流れる。
「なるほど、これを期に縁切りってわけか」 「・・・そんな気はない。私は武器庫にでも何にでもなる
つもりだ、そんな私についてきた者も文句を言う筋には無
い。だが、道具であってももっと有効に使ってはくれない
か? 君の目的を教えてくれれば・・・」
なおも言葉を続けようとするクニフダに「セリフ長すぎ
だ」と言い放つと、ブランはきびすを返して出口へと向か
う。
そして出口のハウンドに「死人が出る前に手を引いとけ」
と言ったきり、振り向きもせず廊下の向こうに姿を消して
しまった。
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